欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/3/23

EU産業・貿易

多国籍企業の課税逃れ対策で新ルール導入へ、税務当局に情報交換義務づけ

この記事の要約

欧州委員会は18日、多国籍企業による課税逃れを防止する取り組みの一環として、税の透明性向上を目的とする新たな法案パッケージを発表した。加盟国の税務当局が企業と結んだ課税措置に関する取り決めについて、当局間での情報交換を義 […]

欧州委員会は18日、多国籍企業による課税逃れを防止する取り組みの一環として、税の透明性向上を目的とする新たな法案パッケージを発表した。加盟国の税務当局が企業と結んだ課税措置に関する取り決めについて、当局間での情報交換を義務づけることなどを柱とする内容。欧州委は2016年1月の新ルール導入を目指しており、欧州議会と閣僚理事会に迅速な承認を求めている。ただ、税制関連の立法手続きでは全会一致の承認が必要なため、誘致の見返りとして多国籍企業に優遇税制を適用してきた加盟国の抵抗で議論が難航する可能性もある。

多国籍企業に対する税優遇措置で焦点となっているのは、税務当局と企業が予め課税内容について協議し、各国の税制に沿って妥当な申告額を事前に取り決める「タックスルーリング」と呼ばれる制度。税務当局と企業の間の取り決め自体は違法ではないものの、欧州委は特定の企業を優遇することで公正な競争が阻害されているとの見方を強めており、昨年からルクセンブルク、アイルランド、オランダ、ベルギーの優遇税制について調査を進めると共に、課税逃れの防止に向けた新たな規制案を検討していた。

欧州委の提案によると、各国の税務当局は3カ月ごとにタックスルーリングに関する報告書(どの企業と、どのような取り決めを結んでいるか)をすべてのEU加盟国に提出しなければならず、当該措置の影響を受ける加盟国はさらに詳しい情報を要求できる。これまでも各国当局による連携の仕組みはあったものの、情報交換は任意ベースだったため、国境を越えて影響が及ぶ課税措置の実態はほとんど把握されていなかった。新たにタックスルーリングに関する自動情報交換システムを構築することで、加盟国は早い段階で企業による有害な税慣行を特定し、必要な対策を講じることが可能になる。

一方、法案パッケージには税の透明性向上のための検討課題をまとめた通達も盛り込まれている。欧州委は具体的に◇税優遇措置の適用を受けている多国籍企業に対し、より広範な税務情報の開示を義務づける新たな規制の導入を検討する◇有害な競争税制の排除を目的とする「企業課税に関する行動規範」を見直し、実態に即した有害税制の判断基準を定めて複雑な会計手法を用いた悪質な課税逃れに対応できるようにする◇欧州委とEU統計局(ユーロスタット)、加盟国が連携して脱税や租税回避によって失われる税収について正確な数字を算出し、信頼性の高い統計を基により有効な対策を講じることができるようにする――などを提案している。

なお、欧州委は現在、単一市場におけるより公正で効果的な法人課税を実現するための具体策を盛り込んだ行動計画の策定を進めており、夏までに原案をまとめる方針を示している。