仏メディア・通信大手ビベンディは5日、傘下の仏携帯電話サービス2位SFRを仏ケーブルテレビ大手ニュメリカブルの親会社アルティス(ルクセンブルク)に売却することを決めたと発表した。買収額は最大約170億ユーロ。SFR買収には、3位ブイグ・テレコムを傘下に持つ仏コングロマリット(複合企業)のブイグも参戦していたが、ビベンディは事業が補完的関係にあり、買収認可のハードルが低いアルティスとの取引を選んだ。
ビベンディはアルティスから現金135億ユーロと、ニュメリカブルとSFRが合併して誕生する新会社の株式20%を受け取る。さらに、新会社の営業利益(利払い前・税引き前・償却前利益=EBITDA)が20億ユーロを超えれば、追加で7億5,000万ユーロが支払われる。これが実施された場合の買収額は170億ユーロを超える。さらに、ビベンディは新会社の株式を1年後に売却する権利も持つ。
ニュメリカブルはSFR統合によって、これまでのケーブルテレビ(CATV)、ケーブル回線を利用した固定電話、ブロードバンド接続サービス事業に携帯電話サービスが加わり、総合通信事業者となる。
ビベンディは昨年11月、中核のメディア部門に経営資源を集中するため、SFRを2014年半ばに分社化すると発表した。しかし、売却も選択肢のひとつとしたことから、3月初めにアルティスとブイグが相次いで買収を提案していた。
当初の買収案は、ビベンディが現金113億ユーロと、ブイグ・テレコムとSFRの統合によって誕生する新会社の株式43%、アルティスが現金117億5,000万ユーロと新会社の株式32%という内容だった。
ビベンディが3月14日にアルティスと独占交渉に入ったことを受けて、ブイグは巻き返しのため、20日に現金部分を引き上げる新提案を提示。さらに、アルティスとの独占交渉が期限を迎える直前の4日にも新提案を出し、最終的に現金150億ユーロ、新会社の株式10%という条件を提示した。これに対してアルティスは同日、株式部分を引き下げる代わりに、現金支払いを総額142億5,000万ユーロまで増額し、ビベンディの同意を取り付けた。
この買収合戦をめぐっては、仏政府が外国企業であるアルティスへのSFR売却に反発し、あからさまにブイグを支持していた。それでもビベンディがアルティスへの売却に踏み切った大きな要因となったのが、買収認可の手続きだ。
仏携帯電話サービス市場は現在、最大手オレンジ(旧フランステレコム)、SFR、ブイグ・テレコム、イリアッド傘下のフリー・モバイルの4社体制。フリーが2012年に低料金を掲げて参入してから、価格競争が激化している。ビベンディが同事業からの撤退を決めたのも、値下げ競争に耐え切れないという判断があった。
SFRとブイグ・テレコムが統合すると3社に減って寡占が強まる。このためビベンディは、ブイグへの売却を決めた場合は、EUの欧州委員会が買収審査で、競争が損なわれて料金が上昇に転じかねないとして難色を示し、売却が阻止されるか、一部事業・資産の売却を迫られるのが必至と判断。アルティスへの売却を選んだ。取締役会も声明で、「専門家に意見を聞いたところ、競争面のリスクに関して、アルティスの買収提案が最も小さいという結論に達した」として、よりスムーズな認可手続きが見込める点が決め手となったことを認めた。
欧州の携帯通信業界では競争が激化する中、英ボーダフォンの独CATV最大手カーベル・ドイチュラント買収、テレフォニカ(スペイン)によるKPN(オランダ)の独携帯電話サービス子会社Eプルス買収など、体力強化に向けた再編の動きが活発化している。SFRをめぐる買収合戦は、新たな再編の動きとして大きな注目を集めていた。