欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/5/4

EU産業・貿易

対米貿易協定の年内妥結は困難、EU側主席交渉官が見解

この記事の要約

EU・米間の貿易自由化に向けた環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)をめぐり、EUのベルセロ主席交渉官は4月28日、交渉は2016年にずれ込むとの見通しを明らかにした。大統領選を控えた米国の事情を踏まえてEUは15年中の妥 […]

EU・米間の貿易自由化に向けた環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)をめぐり、EUのベルセロ主席交渉官は4月28日、交渉は2016年にずれ込むとの見通しを明らかにした。大統領選を控えた米国の事情を踏まえてEUは15年中の妥結を目指しているが、焦点の1つになっている投資家保護協定をめぐる協議は昨年から中断しており、交渉は足踏み状態にある。昨年11月の米中間選挙では貿易自由化に積極的な共和党が上下両院で過半数を獲得し、交渉に弾みがつくとの見方も出ていたが、年内妥結の可能性は極めて低くなった。

ベルセロ主席交渉官はベルリンで会見を行い、「年末までにどのようなことが可能か、現時点で何事も排除しないが、交渉はより難しい段階に差し掛かろうとしている」と指摘。「交渉妥結に向けてさらに多くの時間が必要であることは明らかだ」と述べた。同氏はそのうえで「米側は来年の交渉継続を明言している」と付け加え、大統領選が交渉の妨げになることはないとの認識を示した。

EUと米国は世界貿易の約3割を占める巨大貿易圏で高いレベルの市場開放を実現するため、13年7月からTTIP締結交渉を進めている。これまで9回にわたり交渉会合が行われたが、食品安全や環境分野などにおける規制の調和や、投資家保護を目的とするISD(投資家対国家の紛争解決)条項をめぐって協議が難航している。

一方、EUと東南アジア諸国連合(ASEAN)は26日、マレーシアの首都クアラルンプールで通商担当相などによる会合を開き、自由貿易協定(FTA)の交渉再開を目指す方針で一致した。年内に高官レベルの会合を開いて現状と検討すべき課題を整理し、交渉再開に向けた取り組みを本格化させる。

EUとASEANは2007年に地域間のFTA締結に向けて交渉を開始したが、ミャンマーの民主化問題などが障害となって09年に中断。EUはその後、ASEAN加盟国との個別交渉に方針を転換し、13年9月にシンガポールとのFTAが最終合意に達したほか、現在マレーシア、ベトナム、タイと交渉を進めている。

欧州委員会のマルムストロム委員(通商担当)は会議後の会見で、「EUは地域間FTAの実現に向けて全力で取り組む。ただし、正しい手順で話し合いを進めるため、年内に再検討会議を開催することを提案した」と説明している。