欧州委員会のマルムストロム委員(通商担当)は21日、EU・米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)について、今後は対米交渉に関する報告書をすべて公開する方針を明らかにした。加盟国政府から交渉内容が不透明との批判が出ていることを受けた措置。世界貿易の約3割を占める巨大貿易圏で高いレベルの市場開放を実現してEU経済の再活性化を図るため、交渉の透明性を高めてTTIPに対する世論の支持を広げる狙いもある。
EUと米国は貿易と投資に関するあらゆる障壁の撤廃を目指し、2013年7月にTTIP交渉を開始したが、最大の焦点である投資家対国家の紛争解決(ISD)条項のほか、食品・医薬品・自動車などの安全基準、環境保護や個人情報保護などに関連した規制の調和などをめぐって協議が難航している。TTIPが実現すればEUと米国の双方に1,000億ドルの経済効果をもたらすとされるが、EU内では食品や自動車の安全基準や環境への影響などを懸念する声が出ている。
欧州委はこうした現状を踏まえ、昨年11月にユンケル委員長を中心とする新体制が発足した際、TTIP交渉における透明性の確保を公約。今年1月には米国との交渉に関するEU側の提案文書などを公開し、その後も各国政府に対して交渉の進捗について可能な範囲で情報を開示してきた。しかし、情報漏えいが相次いだことで交渉に支障をきたす恐れがあると判断し、7月からは報告書の公開を停止している。これに対し、ドイツのガブリエル経済・エネルギー相兼副首相がマルムストロム委員に書簡を送り、報告書へのアクセス制限を解除するよう要求していた。
マルムストロム委員はブログへの投稿で、TTIP交渉をよりオープンにするということが通商担当委員として最初に下した決定だったが、現在は「不透明さの中で議論が硬直しているようにみえる」と指摘。こうした現状を改善するため、今後は欧州委のウェブサイトで交渉に関する「詳細かつ広範な報告書」をEUのすべての公用語で公開する意向を表明した。