独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が欧州と米国でディーゼル車の排ガス規制を不正に逃れていた問題で、欧州委員会の研究機関が2013年の段階でVW車の排ガス量を操作する違法ソフトの存在を把握していた可能性が浮上している。VW自体は07年の時点で違法性を認識していたとの報道もあり、同社は不正に気づきながら問題のある製品の製造・販売を続け、欧州委は2年間にわたりそれを黙認していたことになる。欧州ではディーゼル車が新車販売の約半数を占め、EUも燃費性能に優れたディーゼル車を推進してきたが、VWの不正問題がディーゼル車をエコカーの柱と位置づける欧州自動車業界の戦略に影響を及ぼす可能性もある。
VWによる不正問題は、今月18日の米環境保護局(EPA)の発表で明るみに出た。同社が08年以降に販売した50万台近くの乗用車で排出規制を不正に逃れた疑いがあるというもので、環境NPOの委託で米ウエストバージニア大学が行った調査を受けて公表した。違法ソフトの搭載が指摘されている車種を調査したところ、排ガス試験時の数値は基準をクリアしているのに対し、実際の路上走行では大きく基準値を超えたことから、NPOがEPAに調査結果を報告し、不正の発覚につながった。EPAによると、VWと傘下のアウディの計5車種に搭載されたソフトには、ハンドルやアクセルペダルなどの動きから試験と実際の路上走行を区別して、試験時だけ浄化機能がフル稼働するプログラムが組み込まれており、浄化機能が制限される路上走行時は窒素酸化物(NOx)の排出量が基準値の最大40倍に達したという。浄化機能を常時作動させると燃費が悪化するとされることから、VWは販売競争で不利になる事態を避けるために違法ソフトを導入したとみられる。
問題の発覚を受け、ドイツやフランスの規制当局が欧州での排ガス試験でも不正があったかどうか調査する方針を打ち出すなか、VWは規制逃れの影響を受ける車が最大1,100万台に上ると発表。当初は米国以外でどの地域に影響が及ぶか明らかにしていなかったが、ドイツのドブリント運輸相は24日、VWが欧州での不正も認めたと明らかにし、BMWやダイムラーなど、VW以外のメーカーも含めて調査を実施する方針を打ち出した。フランスのロワイヤル・エコロジー相も仏ルノーなどを対象に調査を実施すると表明。欧州委のビェンコフスカ委員(域内市場・サービス担当)も同日、「EU域内で法令違反の車両が何台あるのか全体像を把握しなければならない」と述べ、各国当局に調査を指示した。
一方、EUが2年前からVWの不正を把握していたとの疑惑は欧米メディアが27日に報じた。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、欧州委員会の1部門である共同開発センターは13年にまとめた調査報告書で、VWの一部ディーゼル車で路上走行時のNOxの排出量がEUの規制値を大きく上回ったと指摘。問題が見つかった車両には試験であることを感知し、路上走行時より排ガス量を減らすソフトが搭載されているとの見方を示していた。EUでは07年以降、こうしたソフトの使用が禁止されており、欧州委は型式認証試験に路上走行を導入するための法改正を提案しているが、メーカー側の反発などもあり実現していない。
さらにドイツの主要メディアは27日、VWに問題のソフトを納入していた独自動車部品大手ボッシュが07年の時点で、VWに対してソフトの違法性を文書で警告していたと報じた。ボッシュは同ソフトについて、社内でのテスト用として開発したもので、規制逃れのために市販車に搭載すれば違法になると伝えたとされる。
こうした事態を受けて、VWのヴィンターコルン社長は23日、辞意を表明した。同社長は今春に勃発したピエヒ監査役会長(当時)との権力闘争を制し、当初の予定では25日の監査役会で任期延長が正式決定されることになっていた。VWは25日の監査役会ではポルシェのマティアス・ミューラー社長(62)をヴィンターコルン社長の後任とすることを決定した。