EU加盟国は18、19日に開いた首脳会議で、英国の離脱回避に向けたEUの制度改革案で合意した。これを受けて英キャメロン首相は、国内のEU残留に向けた気運が高まると判断し、離脱の是非を問う国民投票を6月23日に実施すると発表した。
英国はEUの通貨統合や、加盟国の出入国審査廃止によって旅行者が国境でパスポートを提示することなく域内を移動できるようにするシェンゲン協定への参加を見送るなど、伝統的にEU統合と距離を置いてきた。こうした反EU的な立場が増幅し、EU離脱が浮上するまでに至ったのは、中東欧諸国の移民が同国の手厚い福祉制度を食い物にしているといった批判が強まっているためだ。
キャメロン首相は前回の総選挙で、国内の反EU派の不満を抑えるため、EU離脱の是非を問う国民投票の実施を公約して再選を果たし、英が望む方向でのEUの制度改革を達成して残留に向けた環境を整えた上で国民投票に臨むという戦略を描いている。これに基づき、首相は昨年11月に◇国家主権の尊重◇EUからの移民に対する社会保障給付の制限◇英国などユーロを導入していないEU加盟国が不利な扱いを受けないようにする――といった改革をEUに要求。EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)が2月初め、他の加盟国が受け入れ可能と判断した改革案をまとめていた。
合意した改革は、トゥスク大統領の案に沿ったもの。最大の焦点となっていた移民の社会保障については、域内からの移民流入が急増し、英国の福祉システムが対応できなくなる場合に限って、緊急措置として4年間は給付制限を認める。同措置の適用期間に関しては、英国は13年を要求していたが、5年が上限とする中東欧諸国と調整した結果、7年とすることで決着した。
移民の本国にいる子供への児童手当を廃止するという要求は求められず、代わりに本国の生活水準に合わせて減額する制度を2020年から導入することで合意した。
主権問題に関しては、英国が「EUの将来の政治的な統合」に関与しないことを認め、これを次回のEU基本条約改定に際して条約に盛り込むことで合意。EUの法案に加盟国の議会の55%以上が反対すれば、これを拒否できる制度の導入も打ち出した。
経済問題では、通貨統合への参加は加盟国の自主的な判断に委ねるとして、英国など非ユーロ参加国の現状維持を容認することを確認すると同時に、非ユーロ参加国は差別的扱いを受けないとする点で一致。非ユーロ参加国がユーロ圏の金融危機などに際して、負担を免除されることでも合意した。
これらの改革をめぐる調整は難航し、首脳会議の協議は31時間に及んだが、加盟国の脱退という前代未聞の事態を食い止めるのが最優先とすることで各国が一致。最終的に全会一致で合意が成立した。
キャメロン首相は首脳会談後に、「要求の圧倒的多数を実現できた」と胸を張り、EUでの英国の「特別な地位」が認められたと宣言。EU離脱の是非を問う国民投票で残留を取り付けるため、「全力で国民の説得に当たる」と表明した。さらに20日に緊急閣議を招集し、国民投票を6月23日に行うことを決めた。
英国の国民投票は17年末までに実施することになっていた。キャメロン首相は制度改革での合意を追い風に、早期の実施に踏み切った格好だ。投票日は議会の承認を経て正式決定となる。
キャメロン首相は投票日発表後に記者団に対して、「選択権は国民が握っているが、私の意見は明確だ。英国は改革されたEUにとどまることで、より安全で強い国になる」と発言。EU離脱は「英国の経済と安全保障を脅かす」と述べ、国民に残留を支持するよう呼びかけた。
ただ、世論調査ではEU離脱派と残留派がきっ抗している状況。与党・保守党も一枚岩ではなく、22人の閣僚のうちゴーブ法相など約6人がEU制度改革を不十分とし、離脱を支持する意向を表明。21日には将来の首相候補と目され、国民に人気のあるロンドン市のジョンソン市長も離脱支持に回ることを明らかにした。このためキャメロン首相にとっては厳しい情勢で、EUは大きな正念場を迎える。