印タタ製鉄が英国事業売却を検討、ティッセンクルップと統合か

インド鉄鋼大手タタ・スチールは3月29日、英国事業の売却を検討していると発表した。世界的な供給過剰や高い製造コストで英国での事業環境が急速に悪化したため、「英国事業全体を売却する可能性を含め、ポートフォリオ再編に向けてあらゆる選択肢を探る」としている。タタが英国から全面撤退することになった場合、1万5,000人の雇用が失われ、欧州鉄鋼業界に影響が波及するのは必至だ。

タタは2007年に英・オランダ資本のコーラスを買収して欧州市場に進出した。このうち英国部門は赤字経営が続いており、棒鋼事業についてはすでに英投資会社との間で売却交渉が進められている。タタの取締役会は29日までに、サウスウェールズにある英最大の製鉄所ポート・タルボット工場の再建計画を「コストがかかりすぎる」として却下。同工場を含む英国事業の売却検討を決めた。

タタの発表を受け、英政府は30日、英国の鉄鋼業界を守るため、各方面と精力的に交渉を行い、あらゆる選択肢を探っているとの声明を発表した。ただ、英ビジネス・イノベーション・技能省の高官は、民間部門に対する国家補助はEUルールで厳しく制限されているため、政府が講じることのできる手段は限られているとコメントしている。

こうしたなか、欧州メディアは1日、同社が英国事業を売却後、独ティッセンクルップの欧州鉄鋼事業との統合を検討していると報じた。アムステルダム近郊にあるタタの製鉄所とドイツ西部デュイスブルクにあるティッセンの製鉄所を一元的に運営し、事業の効率化を図るのが狙いで、タタがティッセンに資本参加する形などが検討されているもよう。事業統合が実現すれば、生産能力でアルセロール・ミタルに次ぐ欧州2位の鉄鋼メーカーが誕生する。

一方、EUでは中国製の安価な鉄鋼製品との競争で深刻な打撃を受けている域内企業を保護するため、貿易救済措置に関するルールの見直しが議論されている。EUは1月、中国を年内に「市場経済国」として認定すべきかどうかについて検討を開始したが、認定した場合、中国からの輸入品に対して反ダンピング(不当廉売)措置などを講じることが困難になり、域内の製造業者はより一層厳しい競争にさらされることになる。そこで欧州委員会は中国に市場経済国の地位を認めた場合でも、ダンピングなどの違法行為に対して貿易救済措置を発動できるようにするための制度改正を提案している。

イタリア政府高官によると、31日の会合では同国やフランスをはじめとする多くの国が欧州委の提案を支持する一方、英国が反対を表明。オランダやスウェーデンなどが英国の支持に回った。英国は近年、経済面で中国との結びつきを強めており、同国を市場経済国として認定すべきだとの立場。自由貿易重視のオランダや北欧諸国も認定を支持している。これに対し、イタリアやフランスは反対の姿勢を明確にしている。

欧州鉄鋼協会(EUROFER)の首脳は「英国が少数派を先導して、米国並みの貿易救済措置を導入するという欧州委の提案を阻止した」と発言。中国の顔色をうかがう英国が中心となり、不当に安い中国製の鉄鋼製品を欧州市場から排除する取り組みを邪魔したと非難した。

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