EU加盟国は20日、ブリュッセルで内相理事会を開き、EUが査証(ビザ)免除措置を実施している国や地域に対し、治安悪化のリスクが増した場合などにビザ免除を一時停止しやすくすることで合意した。難民対策で連携するトルコとのビザ免除協定を念頭に、「緊急ブレーキ」と名づけたメカニズムを導入し、域内でのテロの脅威や不法移民の増加を未然に防ぐ。
EUは現在、トルコ、ウクライナ、ジョージア、コソボとビザ免除に向けた交渉を進めている。このうちトルコに対しては、3月に合意した難民抑制策に基づき、新たにギリシャに密航した移民らをトルコに強制送還する見返りとして、EU域内(シェンゲン協定に加盟していない英国とアイルランドを除く)へのビザなし渡航を早期に実現することを約束している。欧州委員会は6月末までの実施を提案しているが、イスラム教徒が人口(約7,900万人)の99%以上を占めるトルコへのビザ免除に難色を示す加盟国も多く、治安悪化のおそれがある場合などにビザ免除協定を速やかに停止できる仕組みの導入を求める声が高まっていた。
内相理が合意した緊急措置のメカニズムによると、加盟国はビザなし渡航で認められた90日の在留期間を超えて国内に留まる不法滞在者が急増したり、ビザ免除を実施している域外の第3国で再入国を拒否する件数が著しく増えた場合などに、ビザ免除措置を一時停止することができる。新システムの導入には欧州議会の承認が必要。EU議長国を務めるオランダのダイクホフ治安・司法担当相は「渡航ビザの自由化はEUと域外の国々に大きなメリットをもたらすが、同措置が悪用されないようにする必要がある」と強調した。
ビザ免除を実現するにはEUが求める72項目の基準を満たす必要がある。欧州委によると、ウクライナ、ジョージア、コソボはすでにEUの要求をすべて満たしているが、トルコは人権保護など5項目で改善を求められている。とりわけEUは人権弾圧のおそれがあるとしてテロ対策法の改正を求めているが、エルドアン大統領はこれを拒否しており、加盟国の間ではトルコに対するビザ免除を先送りすべきだとの意見が広がっている。デメジエール独内相とカズヌーブ仏内相は会議終了後、ビザ免除の停止メカニズムが機能するようになるまで新規の協定を結ぶべきではないとの考えを示した。ロイター通信は消息筋の話として、トルコに対するビザ免除が秋にずれ込む公算が大きいと報じている。