EU加盟国は21日、多国籍企業の課税逃れを防止するためのルールを定めた「租税回避防止指令(案)」の内容で合意した。低税率国やタックスヘイブン(租税回避地)への利益移転など、広く用いられている手法による課税逃れを封じ込め、実効的な課税の実現を目指す。指令案は次回の財務相理事会で正式に採択される見通しだが、規制強化に難色を示す一部の加盟国に譲歩した結果、欧州委員会が提示した原案と比べて緩やかな内容になっており、実効性を疑問視する声も出ている。
租税回避防止指令は経済協力開発機構(OECD)が昨年10月にまとめた「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」に対応するため、欧州委が今年1月に打ち出した「租税回避防止パッケージ」の核となるもので、典型的な課税逃れのスキームに対抗するための法的拘束力を持つルールを定めている。加盟国は17日の財務相理で大筋合意していたが、ベルギーとチェコが本国政府と協議するための猶予を求めたため、21日までに反対意見が出なければ自動的に合意が成立する手続きがとられた。
指令案によると、最も一般的な課税逃れの手法である低税率国やタックスヘイブンに設立した子会社への利益移転に関しては、移転先の税率が親会社のあるEU加盟国の税率の40%未満の場合、当該加盟国は第3国に移転された利益についても課税対象とすることができる(Controlled Foreign Company=CFCルール)。また、低税率国にある子会社から融資を受け、過大な利子を支払うことで納税額を圧縮する手法を阻止するため、課税所得から差し引くことができる利子負担を原則として税引き・利払い・減価償却前利益(EBITDA)の最大30%に制限する。さらに、特定の収益や企業形態などに対する税務上の扱いが加盟国間で異なる「ハイブリッド・ミスマッチ」を利用した利益移転への対抗策として、移転元の国と同じ扱いを移転先でも適用する。
一方、BEPS行動計画に含まれていないEU独自の施策として、域内の拠点で新製品を開発した企業がコストを損金算入して納税額を最小限に抑えながら、利益が出始めると課税対策のため生産施設を第3国に移転するケースを防ぐため、新たに「出国税(Exit Tax)」を導入する。このほか、租税回避を目的とした「技巧的」な納税方法に関する税務当局と企業の取り決め(タックスルーリング)を制限する「一般的租税回避防止規定(GAAR)」も盛り込んだ。しかし、EU内の法人が極めて税率の低い第3国・地域の企業から受け取る配当金やキャピタルゲインに課税する「スイッチオーバー・ルール」は、最終的に指令案から削除された。
加盟国は新指令に沿って2018年末までに国内法を整備しなければならない(出国税に関するルールは19年末まで)。利子控除を制限する規定に関しては、ベルギーやオーストリアなどがOECDによって国際的なルールが整備されるまで規制の導入を待つべきだと主張。欧州委は19年からの実施を提案していたが、最終的に24年1月を期限とすることで合意した。