EUとカナダは30日、ブリュッセルで包括的経済貿易協定(CETA)に調印した。当初は27日に首脳会議を開いて調印する予定だったが、ベルギー政府が協定に反対する地方政府を説得できずに延期を余儀なくされ、3日遅れの調印となった。協定は欧州議会の承認を経て2017年初めに暫定発効する見通し。5億人超の人口を抱える巨大市場のEUとカナダの間で、農産物や工業製品の99%にあたる品目の関税が撤廃される。
CETAはEUが主要7カ国(G7)と結ぶ初めての自由貿易協定(FTA)となる。協定の完全な発効にはEU28カ国の議会と、ベルギーなど一部の国の地方議会の批准が必要となる。発効するとEU・カナダ間の貿易は20%拡大し、EU経済は120億ユーロ、カナダ経済も120億カナダドル(約90億米ドル)押し上げられるとの試算がある。
調印後の記者会見でEUのトゥスク大統領は、EU内の事情に対するカナダ政府の理解に謝意を表明したうえで、「協定をめぐる議論を通じ、自由貿易がもたらす利益について市民に理解してもらう重要性を改めて認識した」と発言。欧州委員会のユンケル委員長は米国との環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)や日本との経済連携協定(EPA)などを念頭に、「カナダとの協定により、向こう数年間のグローバル化を方向付ける基準が定まった。今後EUが他の国や地域と結ぶ貿易協定で、カナダと合意した水準を下回るわけにはいかない」と強調した。一方、カナダのトルドー首相は「CETAは中流階級に恩恵をもたらし、EUとカナダ双方の経済、さらに世界全体にとって良いことだということを証明できると確信している」と述べた。
EUとカナダは09年10月にCETA交渉を開始し、13年秋に協定案の内容で大筋合意。今年2月には投資をめぐる企業と国家の間の紛争を処理する二審制の裁判制度を導入することでも合意した。しかし、EU内でグローバル化に反対する動きが広がるなか、ベルギーでは南部フランス語圏のワロン地域が投資家保護のための紛争解決手続きを定めた条項を問題視し、今月14日に議会で協定に反対する決議を採択した。同国では7つの地域議会が全会一致で協定に調印する権限を連邦政府に付与する必要があるため、ベルギー政府は期限までにCETAを承認できず、27日の調印延期に追い込まれた。政府はその後、協定が地元企業などに及ぼす影響に対するワロン地域の懸念に配慮した妥協案を提示し、28日夜に地域政府の説得に成功。ようやく調印式にこぎつけた。
欧州委はCETAの調印を機に、米国とのTTIP交渉や日本との間で年内の大筋合意を目指すEPA交渉を加速させたい考えを示している。しかし、EUの通商政策に対する反発の根強さが浮き彫りになるなか、EUの信用力や調整能力を疑問視する声が高まっており、今後の貿易交渉に影響が出る可能性もある。