欧州委員会は12日、金融機関が発行する担保付き債券のカバードボンドや投資ファンドに関する規制をEU域内で統一する方針を発表した。資本市場同盟(CMU)の構築に向けた取り組みの一環で、投資家や資金を必要とする事業者などが国境を越えて資本市場にアクセスしやすくするのが狙い。欧州議会とEU閣僚理事会で欧州委の提案について検討し、英国がEUを離脱する2019年3月までの実施を目指す。
カバードボンドは主に銀行が住宅ローンや地方公共団体向けの融資債権などを担保として発行する債券で、15年末時点の発行残高は全世界で約25兆ユーロ。このうち84%にあたる21兆ユーロをEU内の銀行が発行しており、ドイツ、デンマーク、フランス、スペイン、スウェーデンがその75%を占めている。カバードボンドは欧州の金融機関にとって安定的な資金調達方法として重要性が増しているが、国によって異なる規制や監督体制のため市場が細分化されており、単一市場のメリットを活かせていない。
欧州委はこうした現状を踏まえ、カバードボンド市場の活性化に向けてEUレベルの統合されたアプローチが必要と指摘。カバードボンドの定義や構造上の特色、監督機関の職務と責任、ラベル化のルールなどを域内で統一することを提案している。欧州委は共通ルールの導入により、EU全体で借り入れ費用を年間15億~19億ユーロ削減できるとみている。
一方、投資ファンドはとりわけ中小企業やスタートアップ企業にとって銀行融資に頼らない資金調達方法として重要性が増しており、EU市場における運用資産額は14兆ユーロを超える。ただ、国ごとに異なる運用ルールが障害となり、域内の3カ国以上で販売されているファンドはUCITS(パスポート制度によりEU全域での販売が認められているファンド)の37%、オルタナティブ投資ファンド(AIF)の3%にとどまっている。
欧州委は域内で投資ファンドのマーケティングや手数料などに関するルールを統一することで、運用面のさまざまな障壁が取り除かれ、ファンドの販売コストは年間で最大4億4,000万ユーロ縮小すると試算。投資家にとっては選択肢が増え、事業者は国境を越えた資金調達が容易になると説明している。
欧州委のドムブロフスキス副委員長(金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当)は声明で、CMUの構築に向けて提案した12の施策のうち、これまでに欧州議会と閣僚理事会の承認を得たものは3つにとどまると指摘。「真の単一資本市場を実現するため、英国のEU離脱までに前提条件を整える必要がある」と述べ、欧州議会とEU加盟国に対し、来年5月の欧州議会選挙までに承認手続きを終えるよう要請した。