英中央銀行のイングランド銀行は11月28日、英国がEUとの合意がないまま移行期間を導入できない「無秩序離脱」に陥った場合、英経済は約10年前の世界的な金融危機を上回る打撃を受ける可能性があるとの分析結果を公表した。EUは先月末の緊急首脳会議で英国のEU離脱案を正式決定したが、英国内では離脱案への反発が根強く、議会で否決される可能性がある。カーニー総裁は「移行期間を置くことで英経済への悪影響を最小化できる」と指摘し、各方面に無秩序な合意なき離脱を回避するよう呼びかけた。
英中銀がまとめた報告書によると、無秩序離脱に伴いEUとの貿易で関税措置が導入されるなど最悪のシナリオでは、実質国内総生産(GDP)が最大で8%落ち込む。これは08年の世界金融危機時(6.25%)を上回る水準だ。失業率は労働者の国外流出により金融危機時のピークには達しないものの、現在の4%強から最大7.5%に上昇するとみている。さらに通貨ポンドは最大25%下落し、対ドルで等価水準を割り込むほか、住宅価格も30%下落すると予測。通貨安に伴う物価上昇を抑えるため、政策金利は現在の0.75%から5.50%に引き上げられるとの見方を示した。
英中銀は同時に発表した金融安定報告書で「英国の銀行システムは十分に堅固で、無秩序な離脱を迎えた場合でも家計と企業への融資を継続できる」と強調。そのうえで、無秩序離脱となった場合、デリバティブ(金融派生商品)市場が混乱するリスクが払拭されていないと指摘した。欧州証券市場監督機構(ESMA)は11月下旬、メイ英首相が議会の承認を得られず、最終的に移行期間が設けられない場合でも、当面はEU側の顧客が引き続き英国の清算機関を利用できるようにするための手続きに入ると表明している。