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2019/3/11

EU情報

EUが英離脱めぐる「バックストップ」で新提案、英は国家分断として反発

この記事の要約

EUと英国の離脱交渉でEU側の実務責任者であるバルニエ首席交渉官は8日、英議会が離脱協定案を承認する上で最大の障害となっているアイルランドと北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」について、英国側が一 […]

EUと英国の離脱交渉でEU側の実務責任者であるバルニエ首席交渉官は8日、英議会が離脱協定案を承認する上で最大の障害となっているアイルランドと北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」について、英国側が一方的にバックストップ適用を打ち切り、EU関税同盟から離脱する権利を与えるという新提案を行ったことを明らかにした。しかし、英国側にとって受け入れられない内容で、事態打開には至らないもようだ。

EUと英国は、英国領の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境を設けるのを避けることで合意しているものの、それをどのような仕組みで実現するかは決まっていない。昨年11月に合意した離脱案には、EUを離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため2020年12月末まで設けられる「移行期間」中に最終的な解決策で合意できない場合に、期限付きで英国が関税同盟にとどまる「バックストップ」と呼ばれる措置の導入が盛り込まれた。

しかし、英国内の離脱強硬派は、バックストップが恒久化され、英国が事実上、関税同盟に残留し、EUのルールに縛られることになるとして反発。下院で1月15日に実施された採決で、離脱案が歴史的大差で否決された原因となった。

バルニエ首席交渉官がEU加盟国の大使と会談した後にツイッターで発表した新提案は、こうした英国側の懸念に配慮したもので、英国が一方的に関税同盟から離脱する権利を持つことを約束した。ただ、北アイルランドに関しては関税同盟に残すとしている。

バックストップをめぐっては、EU側が当初、北アイルランドだけを関税同盟にとどめることを提案したが、英国がアイルランドと本土の間に事実上の国境が引かれ、国家が分断されるとして反発。英国全体が関税同盟にとどまることに決まった経緯がある。

今回の提案は、バックストップがあくまでも一時的な措置であることが法的に保証されなければならないという英国側の主張には対応するものの、国家分断という問題が再浮上する。

英国ではEUと合意した協定案が下院で3月12日までに可決できなければ、取り決めがないまま29日に離脱する「合意なき離脱」に踏み切るかどうかを決める採決を13日に行い、否決された場合は離脱を最長で6月末まで延期することをEUに要請することになっている。離脱延期の可否は14日に採決する。

EUと英国は12日の採決で承認を取り付けることを目指し、実務者協議でバックストップに関する妥協策を模索していたが、6日までに進展はなかった。バルニエ首席交渉官はEUにとって可能な最大限の譲歩として、今回の案を持ち出した。しかし、英国側にとっては、過去に拒否した案が復活し、ハードルがさらに上がったことになる。

英国のバークレーEU離脱担当相は同日、「(交渉の)期限が近づく中、過去の議論に戻る場合ではない」と反発。北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)も、報道官が「EUは英国の統合性を尊重するべきだ」として、同案に受け入れ拒否を表明した。

メイ首相率いる与党・保守党は下院で、DUPの閣外協力でかろうじて過半数を維持している。DUPがバルニエ案を支持しない以上、仮にEUと同案で合意しても下院の承認を得るのは難しい。12日の採決を目前に控え、事態打開の見通しは立ってない。