独複合企業ティッセンクルップは10日、インドのタタ製鉄と欧州鉄鋼事業を統合する計画を断念すると発表した。EUの欧州委員会の承認を得られない見通しが確実となったため。これにより、経営の重荷となっていた鉄鋼事業を財務から切り離す取り組みはとん挫し、振出しに戻る格好となった。ティッセンは計画白紙化に伴い、自社を工業会社と素材会社に分割する計画も取り止め、持ち株会社化する方針を打ち出した。
欧州鉄鋼各社は過剰設備と低価格の中国製品流入を背景に業績不振が構造化している。ティッセンとタタはこれを受けて、両社の欧州鉄鋼事業を合弁化することで2017年9月に基本合意した。組織のスリム化とコスト削減を実現し競争力を強化することが狙いで、18年6月には最終合意にこぎ着けた。
欧州委は同計画について、自動車用の鉄鋼製品、缶用メッキ鋼、多様な分野で使われる方向性電磁鋼で寡占状態となり、価格上昇を招く恐れがあると判断。10月に詳細な調査を進めることを決めた。
両社はこれを受けて妥協案を提示したものの、同委の承認を得られないことが確実になったため、統合を断念した。ティッセンは声明で、欧州委の要求に応じてさらに譲歩すると合併のシナジー効果が著しく低下し、経済的なメリットが得られなくなると理由を説明した。
ティッセンは昨年9月、欧州鉄鋼事業を統合するだけでは不十分だとする主要株主の批判を受けて、同社を工業会社ティッセンクルップ・インダストリアルズと素材会社ティッセンクルップ・マテリアルズに分割し、ともに上場株式会社とする計画を打ち出した。インダストリアルズ社にはエレベーター、自動車関連、プラント建設の3事業、マテリアルズ社には誕生するはずだった鉄鋼合弁会社の株式50%と、鉄鋼販売、大型ベアリング、鍛造品、軍用船事業が持ち込まれることになっていた。
取締役会は鉄鋼合弁の断念を受けて、2分割計画の見直しを実施。景気減速に伴う事業の低迷と資本市場の現状を踏まえると、取り止めた方がよいとの結論に達した。代わりに同社を持ち株会社化して各事業会社に裁量を与え、収益力を強化する方針を打ち出した。
ティッセンは鉄鋼事業の合弁化を通して帳簿上の利益を計上し、財務を大幅に改善する考えだった。合弁計画の中止によって、目算が狂ったことから、同社は収益力が高いエレベーター部門の新規株式公開(IPO)を実施し、財務基盤を強化する意向を表明した。
統合計画の断念は19年9月通期決算にも大きな影響をもたらす。4~6月期(第3四半期)決算から鉄鋼事業が再び連結対象となるためで、9月通期の純損益は赤字に転落する見通しだ。この予測には、厚板分野のカルテルで近く独連邦カルテル庁から制裁金支払いが命じられることを見据えた引当金の積み増し(1億ユーロ強)が含まれている。