欧州委員会は4日、2050年までに域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標に法的拘束力を持たせる「欧州気候法案」を発表した。2019年12月に発足した欧州委の新体制は気候変動対策を最重要課題と位置づけており、気候法案はフォンデアライエン欧州委員長が打ち出した包括的な環境政策「欧州グリーンディール」の柱となる。加盟国と欧州議会の承認を得て、21年の成立を目指す。
フォンデアライエン氏は声明で「われわれはEUが50年までに世界で最初に温室効果ガス排出量の実質ゼロを達成するための取り組みを進めている。法案は企業や投資家に予測可能性と透明性を与え、持続可能な成長戦略の方向性を示すと共に、段階的かつ公平な脱炭素社会への移行を保証するものだ」と述べた。
法案は50年までにEU全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると明記した。石炭など化石燃料への依存度が高いポーランドなどの反対で国別の目標は設定されていないため、ある国で排出量が吸収・回収量を上回っても、別の国でその分を相殺するだけの吸収・回収量を達成できれば、全体としては実質ゼロを実現できることになる。
23年9月以降、5年ごとに欧州委がEUと各国の取り組みを評価し、目標達成に向けた進捗をチェック。50年にかけて欧州委が独自に中間目標を設定できる仕組みを導入し、対策が不十分と判断した場合は加盟国に改善勧告を出す。
一方、欧州委は30年までの排出削減目標を従来の1990年比40%減から50~55%減に引き上げる方針を示しているが、9月までに影響評価をまとめ、そのうえで気候法案に盛り込むかどうか決定する。また、より野心的な目標の達成に向け、21年6月までにEU排出量取引制度(EU-ETS)に関する指令をはじめとする諸規制の見直しを行う方針も打ち出した。
ただ、フランスやイタリア、オランダなど12カ国は3日、30年の目標について6月中に結論を出すよう求める書簡を欧州委に送った。11月に英グラスゴーで開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までにEUとしてより高い目標を設定し、議論の主導権を握る狙いがあるとみられる。