欧州委員会のホーガン委員(通商担当)が26日、辞任を表明した。アイルランド人の同委員をめぐっては、夏休みで帰国した際にアイルランドの新型コロナウイルス対策のルールに違反したとして、国内で激しい批判を受け、辞任要求が強まっていた。EUの閣僚に相当する欧州委員の中でも重要ポストである通商担当委員が辞任に追い込まれたことは、フォンデアライエン委員長率いる欧州委にとって大きな痛手となる。
ホーガン氏は26日夜、フォンデアライエン委員長に辞表を提出した。その後に発表した声明で、「いかなる法にも違反していない」としながらも、アイルランド滞在中の行動が国民感情を大きく傷つけたことを謝罪。「物議をかもしていることで私の仕事に支障が出るのが明白になった」として、辞任を決意した胸中を明かした。
ホーガン氏は7月末から8月中旬にかけて母国アイルランドに滞在していた。その際、ゴルフクラブの夕食会に出席したが、参加者が80人以上と同国の規則が定める上限を大きく超えていた。また、ロックダウン(封鎖)が実施されている国内の地域に旅行したことや、EU本部があるベルギーのブリュッセルからアイルランドに入国した際に、自主隔離のルールを守らなかった疑惑が浮上。EU市民に新型コロナ感染防止策の順守を求める立場にありながらルールを無視したとして、国内で批判が巻き起こり、アイルランドのマーティン首相からも進退を問われていた。
夕食会にホーガン氏とともに出席したアイルランドの農相は辞任を迫られたが、同氏は辞任を拒否していた。決定打となったのは自主隔離ルールをめぐる問題。アイルランドでは新型コロナ感染が拡大している国からの入国者に14日間の自主隔離を義務付けるルールがある。ベルギーからの入国は同ルールの対象となるが、ホーガン氏は帰国してから5日間は隔離状態にあったものの、6日目に病院に行って検査を受け、陰性が確認されたため、同日に隔離をやめて移動していた。
当初は公共団体系のウェブサイトの情報に基づいたもので、違反ではないと主張していたが、ルールでは検査で陰性のケースも含むいかなる場合も14日間の隔離を義務付けていることから、言い逃れができなくなった。
ホーガン氏はユンケル委員長時代の欧州委で農業・農村開発担当委員を務め、19年12月に発足した現欧州委で通商担当委員に起用された。同ポストはEUを離脱した英国との通商交渉や、保護主義を強める米国との交渉も担う要職だけに、同氏の去就が注目されていた。
フォンデアライエン委員長はアイルランド政府の推薦に基づき、後任を選ぶ。欧州議会副議長のマックギネス氏、コーヴニー外相らが有力候補として取りざたされている。