欧州委が不良債権処理の戦略発表、コロナ禍による貸し渋り防止へ

欧州委員会は16日、EU内の銀行が抱える不良債権の処理促進に向けた戦略を発表した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で不良債権の急増が避けられない状況となっている中、処理を迅速に進めることで銀行の財務悪化と貸し渋りを防ぐのが狙い。各国が資産管理会社(AMC)と呼ばれる不良債権の買い取り会社を設立することが柱となっている。EUレベルで不良債権受け皿機関「バッドバンク」を創設することは見送った。

EU加盟国は2017年7月に開いた財務相理事会で、域内の銀行が巨額の不良債権を抱える問題への対応策を強化することで合意し、行動計画を採択。これに基づいて欧州委は18年に具体的な対策を提案した。しかし、重要な部分は欧州議会での審議が長引き、実現していない。

EUの銀行の不良債権比率は6月末時点で2.8%と低い水準にあるが、19年末から0.2ポイント上昇した。欧州委はコロナ禍で個人・事業者が融資返済に行き詰まるケースが増え、今後は不良債権が大きく膨らむのが必至なことから、改めて処理促進対策を発表し、早期の実施を目指す。信用収縮が生じて銀行が貸し渋りに走り、コロナ禍で打撃を受けた経済の復興が遅れる事態を招かないようにすることが主眼だ。

対策案は18年に発表した案を土台としている。AMCについては、従来案では「各国が設立する」という表現にとどまっていたが、欧州委が設立を支援し、さらに設立された各国のAMCがネットワークを形成して協調するという方向に肉付けした。

このほか、◇セカンダリー・マーケット(流通市場)での不良債権売却促進◇法人向け融資について、借り手がデフォルト(債務不履行)に陥った場合、銀行が融資時の合意に基づき、訴訟を起こすことなく抵当権を行使できるようにする仕組みの整備など、債務超過に関する各国のルールの調和――なども提案した。いずれも大枠は従来案と変わらないが、流通市場での売却については、EUレベルで不良債権のデータベースを設けて情報を一元管理し、売買の透明性を確保すると同時に、買い手を見つけやすくするという案が提示された。透明性確保に関しては、不良債権を売却する銀行に対して、不良債権のデータをEU全域で比較できるようにするため欧州銀行監督機構(EBA)が導入している共通テンプレートの使用を義務付けることを検討している。

EUは過去の金融・債務危機で、銀行の不良債権処理が遅れ、信用収縮を招いた反省を踏まえ、今回の対策を打ち出した。公的なAMCの設立は、投資会社やヘッジファンドなど民間が買い手となると、安値で買いたたかれることが背景にある。

不良債権の買い取りをめぐっては、ユーロ圏の銀行監督を担う欧州中央銀行(ECB)の銀行監督委員会のエンリア委員長が、域内の銀行の不良債権がコロナ禍の影響で最大1兆4,000億ユーロに膨らむ恐れがあるとして、さらに強力なEUレベルのバッドバンク創設を提唱している。しかし、欧州委は各国で不良債権の状況と関連ルールが異なり、同構想実現には時間がかかるとして、各国が任意で設立する不良債権買い取り会社のネットワーク化にとどめた。

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