2021/1/11

EU情報

EUと英がFTAで合意、1日に暫定発効

この記事の要約

EUと英国の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が12月24日に妥結し、1月1日に暫定発効した。交渉は難航を極め、英のEU離脱の「移行期間」が終了する年末までにまとまらず、貿易に関税が復活する事態が懸念されたが、土壇場 […]

EUと英国の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が12月24日に妥結し、1月1日に暫定発効した。交渉は難航を極め、英のEU離脱の「移行期間」が終了する年末までにまとまらず、貿易に関税が復活する事態が懸念されたが、土壇場で双方が歩み寄って合意に至った。これによって英国は、通商に関しては新たな取り決めを結んだ上で、EUから完全に離脱した。

英国は1月末にEUを離脱したが、離脱直後の急激な変化を回避するため設けられた移行期間が終了する12月末までは、貿易など双方の関係はほとんど変わらなかった。同期間中にFTAを締結しなければ、1月からEUと英国の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活することになっていた。

3月に始まったFTA交渉では、英国が国家の主権を取り戻すことを看板として掲げ、EUのルールに縛られないでも関税ゼロでの通商継続を目指す姿勢を堅持。これを「いいとこ取り」として認めず、公平な競争環境を確保するため、英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求するEUの対立が続き、双方の首席交渉官による協議は難航した。

最終的に同問題では、英国が環境、労働者の権利などで高水準の規制を維持することを約束し、違反した場合はEUが報復関税を発動できる仕組みを設けることで合意した。公的補助についても、EU企業が英企業に対する政府の不当な補助で損害を受けたと判断すれば、英国の裁判所に提訴できる仕組みの導入や、EUが報復関税を課すことができるようにすることで折り合った。英国に今後もEUのルールを適用することや、英国を欧州司法裁判所の管轄下に置くことを求めていたEU側が譲歩した格好となる。英国のジョンソン首相は24日の合意直後に、ツイッターでの投稿で「我々は主権を取り戻した」と述べ、成果を強調した。

一方、もうひとつの大きな焦点だった漁業権をめぐる交渉では、英国側は主権回復の象徴として、同国の排他的経済水域(EEZ)を同国が完全に管理し、EU漁船を締め出そうとしたことにフランスなどEUの沿岸国が猛反発し、激しい攻防戦が展開されてきた。合意では、5年半の移行期間を設け、同期間中にEUの漁獲高(金額ベース)を段階的に25%削減することになった。移行期間終了後は毎年の交渉で漁獲高を決める。当初は80%の削減と、移行期間を3年に限定する方針を打ち出していた英国側が歩み寄った形だ。

FTAは「貿易連携協定(TCA)」と命名され、英議会が30日に承認した。EUでは欧州議会の承認が必要だが、審議の時間がないため、加盟国が29日に全会一致で暫定承認する形で批准にこぎ着け、30日に欧州委のフォンデアライエン委員長とミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)、ジョンソン首相が署名し、1日に暫定発効した。欧州議会が1月または2月に承認し、正式発効となる。

英国は移行期間終了によりEUの単一市場、関税同盟から離脱したが、FTA発効によってモノの貿易については1日以降も関税ゼロが維持される。優遇関税を適用する物品の割当枠も設けない。ただ、優遇関税の対象は、原産地規制の導入で絞られる。例えば英国では、EU産の原材料の使用率が低い製品の輸出には関税が生じる。また、関税ゼロでも検疫や原産地確認など通関手続きが必要となり、EU加盟国として保証されてきた自由なモノの移動は制限される。

また、金融サービスはFTAの対象外で、金融・証券会社などがEU加盟国のうち1カ国で認可を取得すれば域内全域で活動することができる「パスポート制度」が英国の金融事業者には適用されなくなる。このため、英国内でEUと同等の金融規制、監督システムが機能していると認定されないとEU金融市場から締め出される恐れがある。

しかし、「同等性評価」は遅れている。EUの欧州委員会は20年9月、英国に拠点を置く清算機関がEU域内の顧客向けのデリバティブ取引決済業務を継続することを認めると発表したが、2022年6月末までの暫定措置だ。その他の分野では作業が進んでおらず、金融街シティーの欧州の金融ハブとしての地位が低下する可能性がある。

このほか、EUと英国の間の人の自由な移動も終了し、90日間を超える旅行にビザ(査証)が必要となるなど、双方の関係は大きく変わることになった。