EUと中国は12月30日、市場参入の規制緩和など投資環境の整備を目的とする「包括的投資協定(CAI)」の締結交渉で基本合意に達した。EU企業にとっては中国市場へのアクセスが改善され、幅広い分野で事業展開しやすくなる。一方、中国側は産業補助金の透明性向上や、参入企業に対する技術移転の強要禁止などを受け入れた。中国経済を取り込んで新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を再生させたいEUと、米国の政権交代を前にEUとの関係を強化したい中国の思惑が一致した格好だが、欧州議会は新疆ウイグル自治区での強制労働や香港の民主派弾圧を問題視しており、協定発効に向けた批准手続きでは曲折もありそうだ。
EUと中国の首脳らがテレビ会議方式で会談し、7年越しの交渉がようやく妥結した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は声明で「協定は中国との経済関係のバランスをより均衡にするもので、対中関係の重要な節目になる」と訴えた。一方、新華社通信などによると、中国の習近平国家主席は「投資協定は高いレベルで市場開放を推進する中国の決意を自信の表れ」と強調。「新型コロナからの世界経済の回復を牽引し、世界規模で貿易や投資の自由化を促進する」と述べた。
欧州委が発表した文書によると、CAIが発効した場合、多くの分野でEU企業による中国への参入制限が緩和される。例えば対中投資の3割近くを占める自動車産業では、進出企業に対する合弁会社の要件が段階的に廃止され、新エネルギー車(NEV)市場への参入が可能になる。このほか医療、通信、不動産などの分野でも合弁要件が緩和され、EU企業が北京などの主要都市で民間医療機関を運営できるようになったり、現在は投資が禁止されているクラウドサービスでも50%の出資を上限に参入が認められるようになる。
公正な競争環境の確保に向けては、中国政府による国有企業への補助金の透明性を高めるほか、参入企業に技術移転を強制する投資要件の廃止や、行政手続きにおける企業秘密の保護などに関する規定が盛り込まれた。
さらに持続可能な開発の理念に基づく貿易・投資関係の構築に向け、環境や労働分野でも野心的な規定が盛り込まれた。具体的には最大の焦点となっていた中国での労働者保護について、中国側は強制労働を禁止する国際労働機関(ILO)の基本条約の批准を目指すことを約束した。欧州委は声明で「過去に中国が結んだ投資協定で最も野心的な内容だ」と強調している。
14年にスタートしたEUと中国の投資協定を巡る協議は難航が続いていたが、12月末までEU議長国を務めたドイツの主導で交渉が加速した。ドイツからは自動車大手のダイムラーやBMW、保険大手アリアンツ、総合電機大手シーメンスなど、多くの有力企業が中国市場で事業を展開している。EUとしてはトランプ政権の対中強硬路線と距離を置き、コロナ禍からの経済回復を目指して中国との関係強化を優先した格好だが、米国の政権交代が確実になったことで、中国の人権問題などを理由にEU内では協定に難色を示す声も上がっている。協定の発効には閣僚理事会と欧州議会の承認が必要で、批准手続きに手間取る可能性もある。