欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/3/1

EU情報

EU首脳会議で新型コロナ対策を集中協議、ワクチン接種加速・移動制限継続で一致

この記事の要約

EUは2月25日、オンライン形式の首脳会議で新型コロナウイルス感染症への対応について集中的に協議し、ワクチン接種を加速させることや、加盟国が行っている移動制限などの措置を当面継続する必要があるとの認識で一致した。ワクチン […]

EUは2月25日、オンライン形式の首脳会議で新型コロナウイルス感染症への対応について集中的に協議し、ワクチン接種を加速させることや、加盟国が行っている移動制限などの措置を当面継続する必要があるとの認識で一致した。ワクチン接種の証明書によって域内の自由な移動を認める「ワクチンパスポート」構想をめぐっては、依然として加盟国間で温度差が大きく、協議を継続することで合意した。

世界的に変異ウイルスが急速に広がる中、EUでは予定通りにワクチンを調達することができず、接種計画に深刻な遅れが生じている。欧州委員会によると、2月末までに域内でワクチンを接種した人は成人の8%程度にとどまり、米国や英国に大きく後れを取っている。欧州委は必要な量を確保するため輸出制限に踏み切ったが、域外からの反発を招いた。こうした中でハンガリーはEUが承認していないロシアや中国製のワクチンを独自に承認し、接種を開始するなど、加盟国の足並みも乱れている。

加盟27カ国は首脳会議後に発表した声明で、「感染状況が依然として深刻であるうえに、変異ウイルスへの懸念が広がっている」として、ワクチンの承認から生産、供給、接種に至る全プロセスを加速させる必要があると強調。製薬会社は「ワクチン生産の予測可能性を確保し、契約に従って納期を守らなければならない」と指摘し、安定供給に努めるよう訴えた。さらに欧州委が2月中旬に打ち出した変異ウイルスへの対策に沿って、変異型に適した検査方法の開発やゲノム解析、関係機関による研究協力などを資金面で支援することなどを確認した。

フォンデアライエン欧州委員長は首脳会議後の記者会見で、ワクチン供給の見通しについて、6月末までに6億回分、9月末までに10億回分の供給が予定されていると説明。夏の終わりまでに域内の成人人口の70%への接種を完了するとの目標について、「達成可能」との見方を示した。

移動制限に関しては、加盟国がそれぞれ実施している国境をまたぐ不要不急の移動や、夜間の外出を原則禁止するといった措置を当面続ける必要があるとの認識で一致した。ただし、域内の物流や医療従事者などエッセンシャルワーカーの国境をまたぐ移動を妨げないようにするため、制限措置は「必要な範囲で適切、かつ非差別的」なものでなければならないとの原則を改めて確認した。

変異ウイルスの広がりを受けて、ドイツが2月14日からチェコおよびオーストリア西部チロル州との国境を封鎖するなど、一部の加盟国が国境管理を強化している。欧州委は23日、ドイツ、ベルギー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ハンガリーが「行き過ぎた」措置を講じているとして、是正を求める書簡を送った。6カ国は10日以内に制限措置の妥当性を説明する必要がある。

一方、ワクチンの接種証明を巡っては、ギリシャやスペインなど観光業の盛んな国がパスポート制度の導入を求めているのに対し、ドイツやフランスは同構想に懐疑的。マクロン仏大統領は会議後、ワクチンは自発的な接種が原則であり、証明書が移動の自由を保証することになれば接種者と非接種者の差別につながりかねないなどと指摘した。一方、デンマークとスウェーデンはワクチンを接種した人に「電子証明書」を発行する計画を進めており、夏までの運用開始を目指している。

加盟国は今回、接種したワクチンの種類や抗体価など基本的な情報を加盟国で共有できる仕組みを構築する方針で一致したが、運用方法については引き続き検討する。