在イタリアのロシア商工会議所は9日、ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」がイタリアで製造されることが決まったと発表した。スイスの製薬会社アディエンヌ・ファーマ・アンド・バイオテックの伊国内にある工場で生産する。当局の承認が得られれば7月に製造を開始する予定だ。同ワクチンの欧州での生産は初となる。
同商工会議所によると、スプートニクVの伊国内での製造は、同ワクチンの海外販売を担う政府系ファンドのロシア直接投資基金(RDIF)とアディエンヌとの合意によるもの。伊北部ロンバルディア州にあるアディエンヌの工場で生産する。年内に1,000万回分を生産する予定だ。
スプートニクVはロシアで昨年8月に承認されたが、最終治験の途中での見切り発車だったことから効果と安全性に疑問があるとして、当初は世界的に認知されていなかった。しかし、欧米で承認された大手メーカーのワクチンの供給が不足する中、現在では40カ国以上で承認されている。
EUでは共同調達の対象外となっているが、ハンガリーが1月に承認し、スロバキアが調達を決定。チェコも調達を検討している。こうした状況を受けて、EUの欧州医薬品庁(EMA)は4日、承認に向けた「逐次審査」を開始したと発表していた。
ロシア政府は自国の政界での影響力を拡大するためワクチン外交を展開し、スプートニクVを売り込んでいる。国内で同ワクチンへの不信感から接種を望む人が依然として少なく、輸出に回す余力があることも背景にある。イタリアでの生産が承認されれば、同戦略に弾みがつく。
RDIFのキリル・ドミトリエフ最高経営責任者(CEO)がロシア国営テレビに明らかにしたところによると、ドイツとフランス、スペインでの生産についても現地の事業者と契約したという。ただ、仏政府は同日、そのような事実は確認できていないとするコメントを発表した。
これまでにEUが承認したワクチンは、欧州委員会が承認に先立ってメーカーと調達契約を結んでいた。スプートニクVについてはワクチン外交への警戒感から調達交渉を開始していない。それでも、ワクチン不足が解消されなければ、苦肉の策として承認する可能性がありそうだ。
イタリア政府は今回の発表についてコメントを控えており、国内生産を承認した場合も同ワクチンの使用を承認し、国内で接種を開始するかどうかは不明。ロシア商工会議所はAFP通信に対して、「EUでスプートニクVが7月1日までに承認されない場合は、イタリアで生産した分をRDIFが買い上げ、承認済みの国々に供給する」と述べた。