EU共通ワクチン証明書の運用開始確定、加盟国と欧州議会が制度設計で合意

EU加盟国と欧州議会は20日、新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた人などにEU共通の証明書を発行し、域内を自由に移動できるようにする制度を導入する案について合意した。関連法令は加盟国、欧州議会の最終承認を経て7月1日に発効し、夏の観光シーズンの本格的化に合わせて同制度の運用が開始されることが確定した。

コロナ禍で大きな打撃を受けている域内観光業の復興を目的とする同制度の導入は、ギリシャやスペインなど観光業が経済の大きな柱となっている国が求めているもの。欧州委員会が3月中旬に関連法案を発表していた。共通証明書を新型コロナワクチン接種者とPCR検査で陰性の人、コロナに感染して回復した人に無料で発行するという内容で、域内各国は入国時に同証明書を提示した旅行者を受け入れる義務を負う。

加盟国は3月、欧州議会は4月に同制度導入を原則的に承認した。ただ、制度設計をめぐって双方に溝があり、調整が必要となっていた。とくに大きな争点となっていたのが、証明書保持者も入国時にPCR検査を受け、一定期間隔離するかどうかを各国の判断に委ねるという欧州委案の是非。加盟国側は欧州委案を支持しているが、欧州議会側は同制限を設けると「共通制度」の意味がないとして、無制限での入国を認めるべきと主張していた。

 加盟国と欧州議会の協議では、各国が検査、隔離を変異したウイルスによる感染の急増など必要な状況に陥った場合を除いて控えるという妥協案で合意した。

このほか、欧州議会はワクチン未接種者への旅行差別となるのを防ぐため、証明書の取得に必要なPCR検査を無料で受けることができるようにすることを求めていたが、欧州委がEU予算から1億ユーロを検査費用として拠出し、各国に配分することで、検査を受ける人の負担を軽減するという案で折り合った。

同制度を世界保健機関(WHO)がコロナ禍終息を宣言するまで運用するという欧州委案に対して、欧州議会が運用期間を1年に限定するよう求めていた点に関しては、議会側の要求が通った。

また、証明書の名称については、「EUデジタルCOVID証明書」とすることで決着した。欧州委案では「デジタル・グリーン証明書」となっていたが、欧州議会は国際的な通称となっている「ワクチンパスポート」と混同されるのを避けるため、「EU COVID-19(新型コロナウイルス感染症 )証明書」とするよう求めていた。

同制度にはEU各国のほかノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインも参加する。EUの欧州医薬品庁(EMA)が承認したワクチンだけでなく、加盟国が独自に承認したワクチンを接種した場合も証明書を発行する。証明書はスマートフォンなどに保存されるデジタル方式と紙方式の両方で取得可能。各国が取得者の入国時に、QRコード化されたデータ(氏名、生年月日、接種したワクチンの種類、接種日や検査の記録など)をチェックする仕組みとなる。

今回合意した案は加盟国、欧州議会が承認済みだった内容と異なるため、それぞれが改めて承認する必要があるが、異論が出ないのは確実。各国が7月1日までに関連システムの整備を終えることができるかどうかが焦点となりそうだ。

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