欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/10/6

EU産業・貿易

アイルランドのアップル優遇税制は違法、欧州委が不当な公的支援と認定

この記事の要約

欧州委員会は9月30日、アイルランド政府の米アップルに対する税制上の優遇措置について、特定の企業に対する不当な公的支援に当たり、EU法に違反するとの見解を明らかにした。さらに調査を進め、最終的に違法と判断した場合、アップ […]

欧州委員会は9月30日、アイルランド政府の米アップルに対する税制上の優遇措置について、特定の企業に対する不当な公的支援に当たり、EU法に違反するとの見解を明らかにした。さらに調査を進め、最終的に違法と判断した場合、アップルは未納分の税金支払いを命じられる公算が大きい。さらに欧州委は同日、ルクセンブルク政府による伊自動車大手フィアットの子会社に対する優遇税制についても違法との見解を示しており、国際的に批判が高まっている多国籍企業による課税逃れに本格的なメスが入ることになりそうだ。

欧州委は6月、アイルランドとルクセンブルクに加え、米スターバックスに優遇措置を適用しているオランダに対する本格調査を開始していた。違法との見解は、アルムニア副委員長(競争政策担当)がアイルランド政府に送った書簡で示したもの。この中で欧州委は、同国政府とアップルが1991年と2007年に合意した法人税の軽減策に関する取り決めを問題視し、こうした優遇策は「雇用確保に対する見返り」と指摘。アイルランド政府は自国への誘致を目的としてアップルに「特別な利益」を供与しており、「現段階では不当な国家補助に該当すると判断した」と説明している。

アイルランド政府は優遇税制を導入して多国籍企業の誘致を推進しており、アップルに対しては通常12.5%の法人税を2%程度に抑える措置を講じていたとされる。欧州委によると、アップルは欧州やアジアの生産拠点がアイルランド子会社を経由して取引先から製品を購入した形を取り、グループ企業間の取引価格を操作して低税率国に利益を移動させる「移転価格措置」と呼ばれる手法を巧みに利用し、海外事業の利益をアイルランドに集中させてきた。

欧州委は加盟国に対し、最大10年前に遡って違法な補助金の回収を命じる権限を持っており、最終的にアイルランドの優遇税制がEU法で禁止された国家補助にあたると判断した場合、アップルは通常の法人税率が適用された場合との差額の支払いを求められる可能性が高い。同差額は、ロイター通信の試算では約100億ドルに上る。

アイルランド財務省は、欧州委がアップルに対する優遇策について国家補助規定に違反するとの暫定的な判断を近く表明するとの情報が流れた先月29日、「EU法に違反していないと確信している」との声明を発表。欧州委の「懸念や誤解」を払拭するため、反論書を提出したことを明らかにしている。アップルの広報担当も30日、「アイルランドで事業展開する他の企業と同じルールが適用されており、特別な扱いは受けていない」と反論している。

一方、ルクセンブルク政府によるフィアットへの優遇措置をめぐっては、当局と金融子会社フィアット・ファイナンス・アンド・トレードが交わした取り決めが問題になっている。ルクセンブルクは法人税率を29%に設定しているが、欧州委によると、両者が12年に合意した「会計上の処理に関する取り決め」によってフィアット・ファイナンスには実質的に極めて低い税率が適用されている。欧州委は「現時点で一連の措置が域内市場のルールに準拠していると判断できる根拠は何もない」と指摘。また、調査を進めるうえでルクセンブルク側からの情報提供が不十分な点も批判している。

これに対し、ルクセンブルク政府は「欧州委の調査に全面的に協力している」と反論。フィアットに対する対応が違法な国家補助にあたるとの主張には「根拠がないと確信している」と表明した。