欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/10/6

EU産業・貿易

対米FTAで「ISDS削除の可能性排除せず」、次期欧州委員が公聴会で発言

この記事の要約

11月に発足する欧州委員会の新体制で通商担当委員に指名されているマルムストロム現内務担当委員は9月29日、指名承認に向けた欧州議会の公聴会で、米国との自由貿易協定(FTA)について、条件によっては投資家保護を目的としたI […]

11月に発足する欧州委員会の新体制で通商担当委員に指名されているマルムストロム現内務担当委員は9月29日、指名承認に向けた欧州議会の公聴会で、米国との自由貿易協定(FTA)について、条件によっては投資家保護を目的としたISDS(投資家対国家の紛争解決)条項を除外する可能性も視野に今後の交渉を進める考えを示した。ただ、米側はISDSを盛り込まない形での協定には署名しない方針を打ち出している上、実際に同条項を削除した場合、投資分野は協定から除外されることになるため、世界貿易の約3割を占める自由貿易圏の構築を目指す対米FTAは当初の構想に比べて大幅に縮小されることになる。

ISDSはある国が法律や制度を変更したことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、賠償を請求できる仕組み。海外で活動する企業にとってメリットがある反面、国家の規制権限が制限されることで結果的に消費者が不利益を被るとの批判がある。米国とのFTA交渉がスタートした昨年7月の時点では、同条項を盛り込むことに反対する意見はほとんど聞かれなかったが、今年5月の欧州議会選挙で自由貿易に反対するEU懐疑派や極右勢力が躍進したことで大きく風向きが変わった。9月末にはカナダとの間で包括的経済貿易協定(CETA)の締結交渉が妥結したが、直前にドイツのガブリエル経済相がISDSを除外しなければ協定に反対すると発言し、波紋が広がった。

マルムストロム氏は公聴会で、通商担当委員として「米国とのFTAや日本との経済連携協定(EPA)などが優先事項になる」と述べた。質問が集中した対米FTAについて同氏は「現在の形のISDSにはいくつかの問題点があり、削除する可能性を排除しない。自由貿易に向けたEUのモデルを犠牲にすべきではない」と発言。そのうえで、自由貿易を推進する自らの立場から、EUが中国やインドをはじめとする新興国などとの貿易協定ではISDSのような投資家保護のメカニズムが不可欠になると指摘し、対米FTAから同条項を削除すべきかどうかについて「現時点で判断することはできない」と述べた。