EU統計局ユーロスタットが1日に発表したユーロ圏の9月のインフレ率(速報値)は前年同月比3.4%となり、前月の3.0%から0.4ポイント拡大した。これは2008年9月以来、13年ぶりの高水準。エネルギー価格の上昇が物価を大きく押し上げ、欧州中央銀行(ECB)が目標とする2.0%を大きく上回った。(表参照)
分野別の上げ幅はエネルギーが17.4%、工業製品が2.1%、サービスが1.7%。エネルギーは原油、天然ガス価格がコロナ禍の影響で20年に低迷した反動で高騰している。このほか、サプライチェーンの混乱による半導体など生産資材の値上がりも物価を押し上げており、ECBが金融政策で重視する基礎インフレ率(価格変動が激しいエネルギー、食品・アルコール・たばこを除いたインフレ率)も1.9%と、前月の1.6%から拡大した。
ユーロ圏の主要国はドイツが前月の3.4%を大きく上回る4.1%で、約28年ぶりの高水準に達した。エネルギー高騰に加え、付加価値税(VAT)減税が21年12月に打ち切られたことも物価上昇に拍車をかけている。フランスは2.7%、イタリアは3.0%、スペインは4.0%だった。
ユーロ圏ではコロナ禍に伴う消費の停滞などで、20年8月からインフレ率がマイナスとなっていたが、1月から急激に上昇している。ECBは物価の一時的な上振れを容認することで大規模な金融緩和を継続し、コロナ禍で打撃を受けたユーロ圏経済の回復を後押しするため、7月に金融政策の戦略見直しを発表し、インフレ率の目標を従来の「2%未満でそれに近い水準」から「2%」に引き上げた。
しかし、予想を超えるペースで物価が上昇し、7月から新目標を上回っている。年内に4.0%に達するとの見方も出てきた。ECBはインフレ率の急上昇について、一時的要因によるもので、22年には目標水準内に収まるという立場を維持しており、ラガルド総裁は9月28日に行ったECBのフォーラムでの講演で、過剰に反応しない方針を打ち出した。ただ、市場では急上昇がECBの予想より長期化するとの声も出ている。
ECBはコロナ禍対応の金融緩和の柱となっている「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」に基づき国債、社債などの資産を買い入れる措置を22年3月まで継続することになっている。ただ、景気回復が進んでいることから、9月9日の政策理事会で購入ペースを縮小することを決めた。12月には同措置を予定通り打ち切るかどうかを判断する見通しだ。さらに、インフレ率の急上昇を受けて、今後の物価動向を慎重に見極めながら金融政策正常化に向けた「出口戦略」を本格的に探る動きも出てきそうな気配だ。