欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/10/25

EU情報

EUがエネルギー高騰対応策検討へ、天然ガス共同調達・備蓄など柱

この記事の要約

EUは21、22日にブリュッセルで開いた首脳会議で、深刻化しているエネルギー価格高騰への対応策について協議した。家計や企業への短期的な負担軽減策を早急にまとめるとともに、エネルギーの安定調達に向けた中長期の対応策を検討す […]

EUは21、22日にブリュッセルで開いた首脳会議で、深刻化しているエネルギー価格高騰への対応策について協議した。家計や企業への短期的な負担軽減策を早急にまとめるとともに、エネルギーの安定調達に向けた中長期の対応策を検討することで合意した。26日のエネルギー相理事会で具体策を協議し、12月の首脳会議で議論を深める。

EUでは新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う世界的な燃料需要の高まりなどを背景に、天然ガスの価格が高騰しており、これが電気やガス料金の値上がりを招いている。冬に向けてさらに需給がひっ迫する可能性も指摘されており、コロナ後の景気回復の腰折れ懸念が広がるなか、加盟国からEUレベルでの対応を求める声が上がっていた。

欧州委は今月13日、域内のエネルギー価格高騰を受け、EUルールの範囲内で加盟国がとれる対策案を発表した。低所得層や中小企業向けの補助金や減税などの緊急支援策のほか、EUによる天然ガスの共同調達・備蓄の検討などを盛り込んだ内容で、首脳会議では欧州委案を土台に討議が進められた。

加盟国は欧州委と閣僚理に対し、エネルギーの安定供給を確保し、家計と企業が購入可能な価格を維持するための中長期の対策案を検討するよう求めた。天然ガスの共同調達や備蓄ルールのほか、エネルギー価格の変動を抑制するための規制の見直し、ガス供給に関するリスク分析を地域ごとに行う仕組みの構築などが主な検討課題となる。

天然ガスの備蓄に関しては、加盟国に一定量の備蓄を義務付け、不足した国に融通する仕組みの導入などが提案されている。ただ、フランスやスペインなどが共同購入・備蓄を支持する一方、ドイツやオランダなどは消極的。また、ハンガリーやチェコなどはEUが進める脱炭素化政策がエネルギー高騰の要因だと主張し、首脳会議は紛糾した。

一方、首脳会議ではポーランドの「法の支配」を巡る問題についても協議した。オランダやベルギーなどからは経済制裁を求める意見も出たが、これに対してポーランドは「脅迫」だと猛反発。ドイツやフランスなどが対話による解決を主張し、対応策の合意は見送られた。

ポーランドでは2015年の総選挙で愛国主義的な色彩の強い「法と正義」が政権を掌握して以来、違憲判決を出すのが難しくなるよう憲法裁判所の仕組みを変えたり、最高裁判事の人事権を政府が掌握するための法改正を行うなど、政権による司法介入を強める制度改革が進められてきた。欧州委は同国の司法制度改革がEUの基本理念である「法の支配」に反するとしてくり返し警告。しかし、ポーランドは昨年、新たに裁判官の懲戒制度に関する法律を導入し、最高裁判所に裁判官の懲戒処分を管轄する機関を設置した。政府の意向に反する判決を阻止する狙いであることは明白で、欧州委は今年3月、EU司法裁に再び提訴。7月にはEU法違反の判決が出た。

これに対し、ポーランドの憲法裁判所は今月7日、EU基本条約の一部条項は同国の憲法に適合せず、国内法がEU法より優先する場合があるとの判断を示した。フォンデアライエン欧州委員長は19日の欧州議会で、「EUの法体系に対する挑戦だ」と強く非難。ポーランドの対応によっては、「法の支配」を逸脱した加盟国にEU資金の供給を停止したり、EU加盟国としての権利を停止する制裁の発動を検討すると警告した。

首脳会議でも多くの首脳が「EUの根幹にかかわる」との懸念を共有したが、同じく強権政治を強め、法の支配の逸脱を問われているハンガリーのオルバン首相がポーランドを擁護。ドイツのメルケル首相は決定的な対立を避けるため、話し合いで解決の道を探る必要があると訴えた。