欧州委員会は19日、EUの財政規律を定めた安定成長協定の見直しに向けた議論を再開したと発表した。コロナ禍対応で悪化しているEU各国の財政の健全化と、地球温暖化対策で必要となる環境投資などをいかにして両立させるかが大きな焦点となる。
1997年に締結されたEUの安定成長協定では、各国に単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内、累積債務をGDP比60%以内に抑えることを義務付けている。順守できなかった国には厳しい制裁が課される。しかし、各国の事情を考慮し、これまで制裁が発動された例はなく、ルールが形骸化しているのが実情だ。ギリシャの債務危機を未然に防ぐこともできなかった。また、イタリアなど南欧諸国からは規律が厳しすぎ、経済成長に必要な歳出が制限されるという不満も出ている。
こうした状況を受けて、欧州委は20年2月、ルールの総合的な見直しに着手し、加盟国や欧州議会、欧州中央銀行(ECB)や各国の中銀、学識経験者らによる公開討論を開始した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大への対応に集中するため中断していた。財政規律も20年3月から凍結されている。
財政規律の見直しは13年以来。公開討論では複雑になりすぎたルールの簡素化、透明化、将来を見越した投資を促進できるようにルールを柔軟運用することなどが議題となる。欧州委は23年の新ルール導入を視野に、討論の結果に基づく指針を22年1~3月期に提示する予定だ。
議論は再開されるものの、財政規律をめぐる環境は当初と比べて激変した。各国がコロナ禍対応で大規模な財政出動を迫られ、赤字・債務が膨らんだためだ。累積債務はイタリアでGDP比160%に達し、最悪のギリシャでは同200%を超えている。こうした国々に現行の厳しいルールを適用して財政健全化を迫るのは非現実的との見方が広がっている。
EUはコロナ禍収束後の経済再建の柱として、50年にEU域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指す「欧州グリーンディール」政策に沿って、環境分野への投資を拡大したい考えだが、財政健全化との両立は難しい。
これまでに各国の環境投資を赤字や債務に勘定しないといった案が浮上しており、イタリア、フランス、スペインなど重債務国が支持している。ただ、ドイツなど財政健全化に努めてきた国々が行き過ぎた財政規律軽視につながるとして難色を示す可能性もあり、合意まで曲折が予想される。