欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/10/20

EU産業・貿易

アイルランドが多国籍企業向け優遇税制廃止、すでに適用の企業には20年まで容認

この記事の要約

アイルランド財務省は14日、米国のハイテク企業などに適用してきた多国籍企業向けの優遇税制を廃止すると発表した。グループ内の利益移転などの手法を用いた多国籍企業の節税対策に対し、国際的な批判が高まっていることに対処する。 […]

アイルランド財務省は14日、米国のハイテク企業などに適用してきた多国籍企業向けの優遇税制を廃止すると発表した。グループ内の利益移転などの手法を用いた多国籍企業の節税対策に対し、国際的な批判が高まっていることに対処する。

ヌーナン財務相は同日、2015年予算案の提出にあわせて企業誘致を目的とした優遇税制の見直し計画を打ち出した。廃止されるのは「ダブル・アイリッシュ」と呼ばれる制度。たとえば米グーグルは同制度を利用して、米本社から海外での事業ライセンスを付与された統括会社と、実際に米国以外の顧客に製品を販売する事業会社をアイルランドに設立し、統括会社の税務上の拠点を租税回避地の英領バミューダ諸島に置くことで、アイルランドでの法人税が免除されている。一方、統括会社からサブライセンスを付与された事業会社には海外事業の利益の大部分が計上されるが、オランダ法人を経由して統括会社に支払うロイヤリティを差し引いた収入のみ課税対象となるため、結果的に納税額はアイルランドの法人税率12.5%を大幅に下回る水準に抑えられている。

なお、事業会社がオランダ法人を間に挟んで統括会社にライセンス料を支払う仕組みは「ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれ、アイルランドとオランダの租税条約により源泉税が非課税となる。こうしてグーグルやアップルなどはダブル・アイリッシュとダッチ・サンドイッチを組み合わせることで、より高い節税効果を上げてきた。

ダブル・アイリッシュの廃止により、アイルランドに拠点を置く企業はすべて同国を税務上の居住国とすることが義務付けられる。新たな税制は15年1月から施行され、それ以降に設立される企業は法人税の軽減措置を受けることができない。一方、現時点でダブル・アイリッシュのスキームを利用している企業に関しては、移行措置として20年末まで優遇策が維持される。

アイルランド財務省は同国に登記しながら、税務上の拠点を国外に置いている企業のリストを公表しておらず、優遇措置の廃止で実際にどの程度の影響が出るかは不明。ただ、グーグルとアップル以外にヤフー、アドビシステムズなどもアイルランド子会社の拠点を租税回避地に置くことで、法人税の課税を回避していることが判明している。

ヌーナン財務相は議会に予算案を提出する際の演説で、「直ちに行動を起こすことで、投資家に今後10年間の課税制度について明確な方向性を示すことができる」と強調。そのうえで、誘致した企業が国外に移転して雇用が失われる事態を防ぐため、特許をはじめとする知的財産が生み出す所得部分に対し、通常の法人税より低い税率を適用するなど新たな優遇策を導入する方針を示している。