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2021/12/20

EU情報

ECBが緊急資産購入措置を3月末に終了、従来の金融緩和は継続

この記事の要約

欧州中央銀行(ECB)は16日に開いた定例政策理事会で、コロナ禍対応として実施している緊急資産購入プログラムを予定通り2022年3月末に打ち切ることを決めた。ユーロ圏で物価が急上昇していることから、金融正常化に舵を切る。 […]

欧州中央銀行(ECB)は16日に開いた定例政策理事会で、コロナ禍対応として実施している緊急資産購入プログラムを予定通り2022年3月末に打ち切ることを決めた。ユーロ圏で物価が急上昇していることから、金融正常化に舵を切る。ただ、「オミクロン株」の感染拡大など景気の不安材料があるため、コロナ禍前から実施している資産買い取り制度は継続する。

終了するのは「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」と呼ばれる国債、社債などの資産を買い入れる措置。ECBが新型コロナウイルスの感染拡大で揺れるユーロ圏経済を下支えするため、2020年3月に導入した。購入枠は1兆8,500億ユーロとなっている。

理事会は現在700億ユーロ程度の毎月の購入額を22年1~3月期に縮小し、3月末で終了することを決めた。一方、従来の資産購入プログラム(APP)に基づく毎月の買い入れは、PEPP打ち切りによる影響を緩和するため、22年4~6月期に現在の200億ユーロから400億ユーロに拡大する。7~9月期には300億ユーロとし、10月以降は200億ユーロに戻す。

APPはユーロ圏のデフレ回避と景気下支えを目的に2015年3月に導入された異例の量的緩和策。18年12月に打ち切られたが、米中貿易摩擦などの影響で景気減速の懸念が強まり、物価も上がりにくい状況に陥った19年11月に再開された。

ユーロ圏ではエネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱による半導体など生産資材の値上がりの影響で物価が急激に上昇し、インフレ率はECBが目標とする2.0%を大きく上回る状況が続いている。11月のインフレ率は過去最高の4.9%だった(表参照)。

ECBはユーロ圏で経済再開が進み、景気が回復していることもあって、緊急的な量的金融緩和を縮小した上で打ち切る。同日に発表した最新の内部経済予測では、21年の成長率を5.1%とし、前回(9月)から0.1ポイント上方修正した。22年は4.2%の成長を見込んでいる。インフレ率は21年が2.6%、22年が3.2%で、それぞれ前回の2.2%、1.7%から大きく引き上げた。

ただ、同様の状況に直面している他の中銀と比べて、金融正常化に向けた動きは鈍い。米連邦準備制度理事会(FRB)は15日、量的緩和の終了時期を3カ月前倒しし、22年3月とするほか、同年に利上げする意向を表明。英中銀のイングランド銀行は16日、政策金利を0.15ポイント引き上げ、0.25%にすると発表した。日米欧の主要中銀で利上げに踏み切るのは初めてだ。

これに対してECBは景気への目配りも重視し、「金融緩和が依然として必要だ」(ラガルド総裁)と判断。期限を設けずにAPPを続ける。インフレ高進を警戒しながらも、23年には目標水準内の1.8%に収まり、24年も同水準で推移すると予測していることが背景にある。

政策金利の引き上げに関しても、インフレ率が2.0%に達し、さらに当面は同水準を維持すると判断するまで現行水準かそれ以下にとどめるとするという姿勢を堅持した。最新予測に基づくと、利上げは23年以降となる見通しだ。

このほか、ECBはPEPPを必要に応じて復活させる用意があることや、PEPPで購入した資産の償還で得た資金を少なくとも24年末まで続け、投資不適格級となっているギリシャ国債も再投資の対象に含める意向を表明。景気の下支え、経済回復が遅れている国への配慮をにじませた。