フランスのマクロン大統領は9日、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナなどが安全保障やエネルギー政策などでEUと協力できる新たな枠組み「欧州政治共同体」の創設を提案した。厳格なEU加盟基準を満たすには長い時間がかかるため、簡素な手続きで加盟できる新組織を設けて欧州の結束を強める必要があると訴えた。
マクロン氏は仏東部ストラスブールの欧州議会で演説し、新組織の創設を提唱した。同氏はEUへの早期加盟を目指すウクライナについて、「心情的には既に欧州の一員だが、仮に明日、加盟候補国として認定したとしても、加盟までには何年も、おそらく数十年かかるであろうことを誰もが知っている」と発言。現在の加盟基準を緩めない限り、ウクライナの早期加盟は困難との認識を示した。
同氏はそのうえで、EU加盟を目指す国々を長期にわたり未加盟のまま待たせ続ければ、周辺国を失望させることになり、欧州の安定を脅かすリスクになりかねないと指摘。EUの枠組みを超えた新たな政治的共同体を創設することで、民主主義などの基本的価値観を共有する欧州の国々が安全保障やエネルギー、インフラ、投資、人の移動といった政策分野で協力できるようになると説明した。
マクロン氏は新組織の具体的な機能など詳細は明らかにしなかったが、ウクライナの他に同じくEU加盟を目指すバルカン諸国、3月に加盟申請したモルドバとジョージア、さらにEUを離脱した英国の参加も想定する。ただ、新組織に加わってもEU加盟の条件が緩和されたり、手続きが簡素化されるわけではないため、早期加盟を望む国々が賛同するかは不透明。また、欧州の勢力拡大に神経を尖らせるロシアがさらに態度を硬化させる恐れもある。
一方、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は9日、ウクライナのEU加盟申請をめぐり、6月中に意見書をまとめる方針を表明した。意見書をもとにウクライナ側の準備が整ったと加盟国が全会一致で認めれば、同国は加盟候補国として認定され、35の政策分野ごとの交渉に入る。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月末、EUへの加盟申請書に署名。フォンデアライエン氏は4月に同国の首都キーウ(キエフ)を訪問した際、可能な限り加盟手続きを加速させると約束していた。同氏は9日のヨーロッパ・デー(EU創設記念日)に行った議長国フランスのマクロン大統領との共同会見で、ウクライナのEU加盟に向けた課題について、汚職改革を進める必要があるとの認識を示した。