英イングランド銀行(中央銀行)は24日、気候変動が国内の大手金融機関に与える影響を評価するストレステスト(健全性審査)の結果を公表した。気候変動を抑制するための追加的な対策が講じられず、地球温暖化が最も深刻化するシナリオでは、大手銀行や保険会社の年間収益が10~15%減少すると警告。低炭素経済への移行コストや自然災害による損失を減らすため、気候変動への取り組みを加速させるよう求めた。
英金融機関に対する気候変動ストレステストは今回が初めて。イングランド銀はHSBCやバークレイズ、ナットウエストをはじめとする大手銀行と、ロイズやアビバなど保険大手の計19社を対象に、気候変動リスクが事業や財務状況に及ぼす影響を分析した。金融システム全体の耐性を把握することが目的であるため、1社ごとの分析結果は公表しない。
ストレステストは(1)早期に効果的な温暖化対策が講じられるケース(2)対策が遅れるケース(3)追加的な対策が講じられないケース――の3つのシナリオを想定。(1)と(2)では50年までに地球の平均気温が産業革命前と比べて1.8度上昇するのに対し、(3)では約2倍の3.3度上昇すると仮定して、生じうるリスクとその影響を分析した。
それによると、最悪のシナリオでは50年までに累計で3,340億ポンド(約53兆円)の損失が生じる。銀行では環境規制に対応するためのコストがかさみ、債務不履行に陥る投融資先の企業が増える。一方、保険会社は運用資産への影響に加え、洪水など温暖化に起因する自然災害の頻度や規模が増大することで、保険金の支払いが膨らむ。
イングランド銀のサム・ウッズ副総裁は「今回のテストから得られる重要な教訓は、気候変動リスクを適切に管理できなかった場合、金融機関の収益性が持続的に圧迫されるということだ。ただ、銀行や保険会社の支払い余力への直接的な影響はなく、金融システム全体としては損失を吸収できる」と指摘。そのうえで、気候変動リスクには不確実性が大きく定量的な評価が難しいため、早期に対策を進める必要があると訴えた。