かつて「東欧の優等生」ともてはやされたスロベニアの危機が深刻化している。ムーディーズが2日、スタンダード&プアーズが翌3日に同国の信用格付けを引き下げたことで、国債の利回りが上昇しているためだ。政府は今のところ、財政危機に直面するユーロ参加国に対する緊急金融支援の枠組みである「欧州金融安定基金(EFSF)」の救援は必要ないとの立場を維持している。しかし、財政赤字の拡大、制度改革の遅延、不良債権増大による銀行の財務悪化に直面し、自力での危機解決が難しくなっているのは事実だ。
\ムーディーズは同国の信用格付けを「A2」から「Baa2」へと3段階引き下げた。さらに2段階下がれば「投機的」となる水準だ。スタンダード&プアーズは「Aプラス」から「A」へと引き下げ、アウトルックも「ネガティブ」とした。格下げを受けて、10年物国債の金利は3日に7%を超え、スペインと同水準に悪化した。
\ライフアイゼン・リサーチ(ウィーン)のアナリストらは、スロベニアを「中欧のスペイン」と呼ぶ。不動産バブルがはじけて建設大手が軒並み倒産し、不良債権が増大している状況がスペインとよく似ているためだ。スロベニアの国立経済研究所によれば、銀行業界の不良債権額は60億ユーロにも上っている。この問題を人口200万人のスロベニアが独自に解決できるかには疑問符がつく。
\スロベニアの銀行業界は、ハンガリーやルーマニアに比べても資金力が弱い。国民の資産を守るためという理由のもとで、外国銀行の参入条件を厳しくしているためだ。
\銀行は融資拡大で不動産ブームに火をつけたばかりでなく、政治的な理由による企業買収でも資金を貸し出した。その後に多くの企業が倒産し、スロベニア始まって以来の金融危機を招いた。
\ムーディーズは、国営の3大銀行、ノバ・リュブリャナ・バンカ(NLB)、ノバ・クレジトナ・バンカ・マリボール(NKBM)、Abanka Vipaの資金需要が国内総生産(GDP)の2~8%に相当すると推定する。2011年のGDPは350億ユーロだった。今年1-5月の赤字額は3行合わせて7,000万ユーロ近くに上る。
\欧州委員会は今回の格下げを静観している。しかし、すでに先月6日の国別勧告でスロベニア銀行業界の経営が悪化していると指摘済みだ。不良債権の増大による資金不足を予想し、政府に対して銀行の資金を拡大し、資産の再編を促す措置を実施するよう求めている。
\また、中期的な財政目標を達成する政府の努力が不十分と警告。さらに、労働市場や年金制度を改革する必要性を訴えている。
\今年1月に就任した保守派のヤンシャ首相は、「ギリシャのような危機を避けるためには早急に行動を起こす必要がある」と野党に協力を求めた。しかし、これが金融市場を警戒させる結果となったと批判を浴びることとなった。
\危機対策の具体案として、◇債務拡大を食い止める仕組みの導入◇政府保有株を管理するとともに銀行の不良債権を買い取る持ち株会社の設立――が予定されているが、議会での審議は秋に持ちこされている。
\