2012/10/17

総合・マクロ

リトアニア国民投票で原発ノー、日立の事業戦略に影響も

この記事の要約

リトアニアで14日、議会選挙の第1回投票と原子力発電所建設計画の是非を問う国民投票が同時に行われた。中道右派の与党、祖国同盟・リトアニアキリスト教民主党(TK-LKD)は得票率が低迷して第3党に転落したほか、推進してきた […]

リトアニアで14日、議会選挙の第1回投票と原子力発電所建設計画の是非を問う国民投票が同時に行われた。中道右派の与党、祖国同盟・リトアニアキリスト教民主党(TK-LKD)は得票率が低迷して第3党に転落したほか、推進してきた原発計画でも国民の過半数が反対を表明し、ダブルで敗北する格好となった。議会の議席配分は28日の第2回投票を経て決まるが、左派政党が連立政権を樹立することが確実視されている。一方、原発計画は国民の明確な意思表示を受けて、修正される可能性が出てきた。

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■65%が原発反対

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16日朝の選管発表によると、国民投票は反対票が64.81%と賛成の35.19%を大きく上回った。投票率も52%と成立に必要な過半数を達成した。今回の国民投票に法的拘束力はないが、識者は現行の形での実施は難しいとみている。

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原発建設プロジェクトは、日立とゼネラルエレクトリック(GE)の合弁会社であるGE日立ニュークリア・エナジーの受注が事実上決まっていた。しかし、国民が反対の姿勢を明確にしたことに加え、議会選でクビリウス首相退陣が確実となっており、今後の見通しは不透明だ。

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日立製作所は正式受注に向けて、政府や議会、国民との対話を続けていく姿勢を示している。

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日本の原子炉メーカーである日立、三菱重工業、東芝は福島第一原発事故で国内需要が見込めなくなったため、供給先として米国などの原発利用国、エネルギー需要の拡大する新興諸国などに焦点を当てている。日立とリトアニアの契約が成立すれば、福島原発事故後に日本の原子炉メーカーが受注した初めての例となる。日立はこれを足がかりに他国での受注につなげる思惑だったが、今回の結果でその事業戦略に影響が出る可能性が出てきた。

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リトアニアはエストニア、ラトビアとともに、欧州連合(EU)加盟の条件として運転を停止したイグナリナ原発に代わるヴィサギナス原発の建設計画を進めてきた。GE日立ニュークリア・エナジーは、戦略投資家としてプロジェクトに参加する予定で、今年3月には政府と事業権付与付き契約締結で合意している。6月には議会も僅差で締結契約を承認した。しかし、エストニアとラトビアの参加が確実でない中、50億ユーロと推定される巨額投資を支えきれるかという疑問が浮上。議員提案により今回の国民投票実施が決まった。

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ヴィサギナス発電所の建設は需要の70%に及ぶロシアへの電力依存を弱めることを目的としている。国民はソ連支配の記憶から依存脱却を願う気持ちが強く、これまでは原発建設に賛成する人が多かった。それだけに今回の国民投票結果は画期的といえる。

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■財政緊縮で政権交代

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16日朝の中央選挙管理委員会発表によると、議会選では野党の労働党が19.87%を、社会民主党が18.44%の票を得た。両党はパクサス元大統領の所属政党「秩序と正義(PTiT)」(得票率7.33%)と連立して組閣するとみられている。

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クビリウス首相は、2008年の金融危機の最中に実行した大規模な財政緊縮策で人気を落とした。与党の祖国同盟・リトアニアキリスト教民主党(TK-LKD)は得票率が15.02%に低迷し、第3党に転落した。

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議席の配分は、小選挙区における当選者71人が決まる28日の決選投票で確定する。

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リトアニアは2008年まで好景気に沸いていたが、金融危機で大きな打撃を受けた。クビリウス首相は年金削減、公務員給与減額などを含む大規模な財政緊縮策を実施。これが奏功してリトアニア経済は昨年、5.8%の成長を達成した。

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しかし、人口の6分の1が国外へ移住するなど、国民の多くはその代価が大きすぎたと感じている。失業率も今年8月時点で12.9%と依然として高い。

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アルギルダス・ブトケヴィチュース党首率いる社会民主党は、最低賃金の引き上げ、低額所得者の減税(累進課税の再導入)を公約し、国民の支持を得た。(東欧経済ニュース4月4日号「リトアニア政府と日立が契約、原発新設プロジェクトで」、1月4日号「リトアニア、原発建設で日立・GEと基本合意」、2011年12月14日号「ポーランド国営電力PGE、リトアニア原発プロジェクトから撤退」を参照)

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