リトアニアで人気のハム・ソーセージブランド「ソ連’s」が改名を迫られることになった。ウクライナ紛争を機に、冷戦時代のロシアの脅威が再び現実のものと感じられるようになり、美味しいものに「悪者」である「ソ連」の名前はそぐわなくなったということらしい。
リトアニアは1991年2月、ソ連の構成国として初めて、独立を決めた国。欧州連合(EU)加盟への道を邁(まい)進し、その過程で子どもの遊び場からレストラン、ショッピングセンターまで「ヨーロッパ」を冠した店舗や施設がどんどんできていった。
ソーセージも例外ではない。2003年のEU加盟を問う国民投票に合わせて食肉加工会社のビオヴェラは「ユーロ・ソーセージ」を発売した。「欧州=善」のイメージに乗り、賞やメダルを受けた。
ところが、売れ行きはいまいち。というのも、EU加盟による物価上昇の恐れを掻き消すため、安価に製造したのはいいが、添加物満載で食肉加工の伝統を誇るリトアニア人の口には合わなかったのだ。
一方、昔ながらの肉をふんだんに使った「ソ連’s」は消費者の心はともかく舌をしっかりつかんだ。加工元のサムソナスが1998年に発売した当時はネーミングに憤慨する人もあり議論が噴出したが、すでにソ連を過去のものととらえる人が多く、子ども時代を思い出す昔懐かしい味として需要が生まれた。
価格は高めだが美味しさには代えられない。ソ連’sは2005年には国内で消費された肉加工品の実に5分の1を占めた。10年にはハム・ソーセージ人気ブランドのナンバーワンに輝いた。
そこにウクライナ紛争である。ロシアの脅威に現実感が出てきた以上、「ソ連」の名前を冠したソーセージをノスタルジーに浸って味わっている場合ではなくなった。そこで、サムソナスは他の製品と同じように、「ソ連’s」も「サムソナス」ブランドで販売することを決定。今月から「ソ連」ブランドでの出荷を停止した。
ただし、中身もパッケージのデザインも、「品質100%」、「まがいものにNO!」というキャッチフレーズもすべてそのまま。味に影響があるのは名前だけということか。