ポーランド民主化における立役者の一人、レフ・ワレサ元大統領(72)に「スパイ容疑」がかけられている。共産主義政権最後の首相を務めたチェスワフ・キシュチャク将軍の遺品から、ワレサ氏が1970年代に秘密警察に協力していた事実を示す書類が見つかったというのだ。
ナチスと共産主義政権の犯罪を追及する国家記銘院(IPN)が22日に一部を公開したこの文書は、全279ページ。協力を約束した契約書に「レフ・ワレサ、(コードネーム)ボレク」と署名があったという。「ボレク」作成の報告書が数多く含まれ、報酬の領収書もファイリングされている。
これに対して、ワレサ氏は協力したことはないと全面否定している。以前から、「署名をしたことはあるが、実際に情報を流したことは一切ない」と主張し、2000年の特別法廷では「秘密警察に協力した事実は証明できない」とシロの判定が出た。
注目は、果たして新発見の資料が本物かどうかだ。というのもIPNのカミンスキ長官によれば、真贋鑑定はまだすんでいない。それに、共産政権下の秘密警察は、虚偽の書類を多く作成したことで知られる。囚人が精神的・肉体的拷問を受けて、無理に署名させられたケースも例に事欠かない。
ワレサ氏は「外国の専門家による調査」で改めて疑いを晴らしたい意向だ。
実は、ポーランドには偽造の疑いが浮上する要因がある。昨年10月の選挙で大勝した「法と正義(PiS)」の「陰の首相」であるヤロスワフ・カチンスキー党首がワレサ氏と犬猿の仲なのだ。
2010年の飛行機事故でなくなった双子の兄のレフとともに、カチンスキー党首は元々、ワレサ氏率いる独立自主管理労組「連帯」に加入していた。しかし1990年代に仲間割れ。以来、ワレサ氏との関係は悪い。
ワレサ氏は1989年の体制転換を平和裏に実行した立役者の一人。しかし、カチンスキー党首の解釈によると、これは新旧政権の「陰謀」だったに過ぎない。「統一労働者党(共産主義)政権は自ら権力を手放す代わりに追求を逃れ、経済的権力を得た。新政権は政治的権力を得た」といい、有名な「円卓会議」はただの茶番だったとする。ワレサ氏は「共産主義エリート」としてこの陰謀を成功させたというわけだ。
新資料の「発見」時期も気になる。PiS政府の政策が「ポーランド民主制の基盤を崩す」とワレサ氏が強く批判したのは2カ月前のことだ。IPNが本物かどうかわからない書類を公開するのもおかしいし、ドゥダ大統領(PiS)は鑑定を待つことなく、すでに「ワレサ氏は早く真実を認めるべき」とのコメントを出した。
PiSがねつ造したかどうかはともかく、真贋が分からないうちからの「ワレサ・バッシング」は、「新資料」が今日の政治の具となっていることを表している。
ワレサ氏は1980年8月のグダニスク・レーニン造船所におけるストを主導し、独立労組「連帯」を結成したことで知られる。1983年にはノーベル平和賞を受賞した。「連帯」を中心とする動きが、後に民主制への移行につながった。