ブルガリアでベレネ原子力発電所の建設計画が、議会の承認を受けて本格的に再始動する。ボリソフ首相が自ら撤回した計画を再び持ち出した事実は奇異にみえるが、その背景には中止前に調達していた設備機器の存在や、ロシアと手を組むことでエネルギー政策上の利益を確保したい首相の思惑があるようだ。
ベレネ原発は、欧州連合(EU)加盟の条件に基づいて運転を停止したコズロドゥイ原発の原子炉4基に代わるものとしてブルガリアが設置を計画していたもので、ロシア原子力公社(ロスアトム)が2006年に建設を受注した。しかし、建設費が当初計画の40億ユーロを大幅に上回る100億ユーロに膨らんだために資金難となり、ボリソフ政権(当時)は12年に計画を正式に撤回した。
ただ、2016年の国際仲裁裁判所の判断に基づき、政府はロスアトム子会社のアトムストロイエクスポルトがすでに製造した設備機器を約6億ユーロで買い取ることになった。ベレネ計画への国家支出がこれを含めて15億ユーロに上ったため、政府は同設備機器の活用を選択肢の一つとして視野に入れながら、長期エネルギー政策を策定していた。
結果としてベレネ原発の再開が決まったわけだが、専門家の試算によると、電力卸価格が国内および近隣諸国の相場の2倍にならないと、ベレネ原発は採算が取れない。一方で、政府は同計画を純粋な商業プロジェクトとして推進し、公的支出や買取価格の保証を行わないという姿勢を崩していない。このため、果たして計画が成功するかどうかは不透明だ。
プロジェクトの参加にはロスアトムのほか、中国核工業集団(CNNC)、仏EDF傘下のフラマトムが関心を示している。ロシアは受注による経済的利益に加え、ブルガリアへの影響力強化という政治的観点からプロジェクトに注目している。一方、CNNCにとっては同事業への参加を足がかりに欧州市場へ参入したいという思惑がある。
現地のエネルギー・コンサルタントであるイリャン・ヴァシレフ氏は、ボリソフ首相が「ベレネをロシアとの駆け引きに利用しようとしているのでは」と推測する。ベレネ建設をロシアに発注するのと引き換えに、天然ガスパイプライン「トルコ・ストリーム」をブルガリアまで延長させる方向にロシアを動かすことを狙っているという。実現すれば、黒海沿岸のヴァルナ近郊に設置を計画する輸送中継基地(ハブ基地)「バルカン」にロシア産天然ガスが供給されることになり、2013年に中止された「サウス・ストリーム」計画がよみがえる形となる。
ブルガリア政府がロシアや中国との距離を縮める一方で、米国や欧州から進出した企業への風当たりを強めていることには懸念が生じている。欧米民間企業が撤退に追い込まれ、ロシアや中国の国営企業に投資を依存するようになれば、長期的にみて、EUの最貧国の一つであるブルガリアの発展が阻害されると考えられるからだ。