EUが復興基金・中期予算で合意、東欧2カ国が「法の支配」巡り妥協

欧州連合(EU)加盟国は10日の首脳会議で、コロナ復興基金を含むEUの次期中期予算(対象期間2021~27年)について合意した。「法の支配」の順守を資金配分の条件とする仕組みについて猛反発していたポーランド、ハンガリーが妥協し、拒否権発動を取り下げたことで、ようやく決着。EU各国がコロナ禍を乗り切るための大きな切り札となる復興基金の運用と中期予算執行を予定通り1月から開始できることになった。

7,500億ユーロ規模の復興基金は、欧州委員会が市場で調達した資金をEUの中期予算に組み込み、新型コロナによる経済の打撃が大きい国に補助金と融資の形で配分するというもの。補助金が3,900億ユーロ、返済不要の融資が3,600億ユーロとなる。EU加盟国が7月の首脳会議で合意していた。

しかし、法の支配が揺らいでいる国には制裁として、復興基金による支援、EU予算からの補助金交付を禁止する仕組みが新たに導入されることをめぐり、EUが司法の独立、報道の自由などで問題があるとしているポーランド、ハンガリーが反発し、調整が難航。両国は1兆743億ユーロに上る中期予算案が全加盟国による承認が必要となることを盾に取り、拒否権を発動して抵抗していた。

復興基金の運用と中期予算の執行が遅れると、EU全体の景気に悪影響をもたらすだけでなく、受益国である両国の首を絞めることにもなる。このため、EU議長国ドイツのメルケル首相が首脳会議を前に仲裁に入り、妥協案を提示。これをポーランド、ハンガリーが受け入れた。

同妥協案は、首脳会議が◇資金配分と法の支配を結び付ける仕組みは特定の加盟国を標的とするものではなく、EUの資金が適切に活用されるためのセーフガードとして導入する◇ポーランドとハンガリーは同システムがEU基本条約に抵触していないかどうかの判断を欧州司法裁判所に求めることができ、裁定が下るまで資金配分は停止しない◇欧州裁の裁定が出てから、欧州委が同仕組みの運用のガイドラインを策定する――という宣言を出すという内容。仕組み自体は見直さないものの、実際の運用を当面は見送ることで折り合った。これによって運用開始は2022年以降にずれ込む見通しだ。同年に総選挙を迎えるハンガリーのオルバン首相にとっては大きな意味を持つ。

次期中期予算は欧州議会の承認が必要。議会は同妥協案を支持しており、年内に予算案が成立する見込みだ。

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