ロシアのモバイル通信会社がeSIM技術の導入を模索している。eSIMはあらかじめ端末に埋め込まれた書き込み可能なチップのことで、チップの情報を自由に書き換えられる特徴を持つ。同技術により、ユーザーは複数の事業者のサービスを簡単に乗り換えられるようになることから、今後従来型のSIMカードを代替していくと予想されている。しかし同国のデジタル発展・通信・マスコミ省はeSIMのユーザープロファイルを集中管理する意向を示しており、分散型の管理を志向するモバイル通信事業者との間で問題が生ずる可能性もある。
デジタル発展・通信・マスコミ省が先ごろ明らかにしたところによると、同省はeSIM技術を利用したSIMカードのユーザープロファイルを保存するシステムの構築を計画している。データ保存システムの導入は同省の中央通信研究所(TsNIIS)が担当する予定。同省は契約者のデータ保護が目的だとしている。
eSIMでは従来のSIMと異なりユーザーがSIMカードを抜き差しする必要はない。セルラーネットワークへの接続後わずか数分で利用を開始することが可能だ。現在のところロシアにはeSIMの利用に関する法規制は存在しておらず、モバイル通信会社はeSIMのプロファイル保存のため外国企業が開発したものを含め様々な技術を利用している。今回政府が自国のソフトウエアを使い直々にプラットフォームの設置と運営に乗り出すことにした背景には、外国技術の導入に政府が敏感になっていることがある。
政府の構想が実現した場合には、国内のモバイル通信会社は官製のデータベースを利用することが義務付けられる見通し。現地経済紙『コンメルサント』によると、デジタル発展・通信・マスコミ省はeSIMのプラットフォーム管理者を公開入札で選定する予定だ。
一方、政府の計画する中央集権的なプラットフォームは、ブロックチェーン技術などの普及で分散化の進むIT産業の動向に反する。これについて現地のモバイル通信事業者は、eSIMのプロファイルを各企業が分散して保管する方がセキュリティは高くなるとの見方を示す。
eSIMはすでに米アップルのiPhone(XS、XS Max及びXR)のほか、サムスン、華為技術(ファーウェイ)、Honorの各スマートフォン並びにアップルのスマートウォッチで利用が可能になっている。ロシアの通信大手VEONとメガフォンは昨年7月以来、ユーザーがeSIMを選択できるようにしている。
ロシア政府はまた、通信サービスを利用するすべてのユーザーを対象に遠隔でバイオメトリクス(生体)認証を行うシステムの導入を計画している。同システムの導入には年間で1,000万ルーブル(約11万ユーロ)がかかると見られ、通信事業者によるコスト負担に加え、生態認証が行えない非ロシア人ユーザーの接続や、eSIMの機能が正常に機能するのかといった課題を抱えている。同認証システムの運用は国営ロステレコムが担当する予定。(1RUB=1.36JPY)