欧州連合(EU)が新型コロナウイルス感染拡大で傷んだ経済の再生を目指して創設した総額7,500億ユーロの復興基金が、7月にも始動する見通しとなった。加盟国は復興基金から資金を受け取るため、6年間の復興計画を策定して欧州委員会の審査を受ける必要がある。期限の4月30日までにドイツ、フランス、イタリアなどが復興計画を提出したが、EU内では景気回復で米国や中国に遅れをとっている現状への危機感から、復興基金の規模拡大を求める声も出ている。
ドイツのショルツ財務相とフランスのルメール経済・財務相は4月27日、オンラインで共同記者会見を開き、復興基金から配分される資金の大部分を気候変動への対応やデジタル化に投入する方針を示した。EUは復興基金の中核をなす6,725億ユーロの復興・強靭化ファシリティ(RRF)について、少なくとも37%を環境分野、20%をデジタル分野に投入する方針を打ち出しているが、ドイツは配分される資金の90%、フランスも75%をこれら2つの分野に充当し、将来の成長と競争力強化につなげたい考えだ。
ショルツ財務相によると、ドイツの復興計画は総額280億ユーロ。電気自動車や水素エネルギーの普及促進、エネルギー効率改善のための建造物の改築などの気候変動対応に115億ユーロを充てる。また、教育・医療・行政などのデジタル化に140億ユーロ超を投入する。一方、フランスの復興計画は総額410億ユーロ。50%を気候変動対応、25%をデジタル化に充てる。
ショルツ財務相は「今日は欧州にとって良い日だ。復興基金を活用し、EU加盟国は危機からより強く立ち上がるための対策を講じることができる。ドイツの復興計画は気候変動対策とデジタル化に重点を置き、成長と雇用を支える明確なシグナルを発している」と強調。ドイツ経済研究所(DIW)の試算を引用し、復興計画による長期的にはドイツの国内総生産(GDP)が約2%押し上げられ、雇用も0.5%拡大するとの見通しを示した。
ルメール財務相は「復興基金の創設と共通債発行の決定からあまりにも多くの時間を失ってしまった。景気回復で米中に大きく水をあけられたが、EUは競争に参加し続けなければならない」と発言。欧州委は各国の復興計画を迅速に分析し、7月のEU財務相理事会で承認できるようにすべきだと述べた。
一方、イタリアのドラギ首相は26日、推す額2,215億ユーロ規模の復興計画を発表した。約9割にあたる1,915億ユーロをEUの復興基金で賄い、国内予算から300億ユーロを捻出する。環境対策やデジタル化に加え、交通インフラの改善などに重点投資する計画で、長期的にはGDPを3.6ポイント押し上げると試算している。