ベラルーシからポーランド(欧州連合圏)へ入国できるというデマを信じて、昨年秋以来、中東などから来た難民・移民が大勢、国境で立ち往生している。しかし、寒さと飢えに耐えながら入境を試みる人々のニュースの陰で、実は野生の動物たちにも危険が広がっている事実はあまり知られていない。
その理由は、ポーランド政府が移行策として国境沿いに設置した、高さ2.5メートルのらせん状のカミソリ鉄線にある。現在、高さが5メートルを超える「正式」な鉄柵に置き換わっている最中だが、この鉄線にからまって死亡したバイソンやトナカイなどが確認され始めている。トゲ状の有刺鉄線と異なり、カミソリ鉄線に触れるとけがが大きくなり、失血死につながることが多いという。
この国境地帯は「欧州の最後の原生林」と言われるビャウォビエジャの森で、ユネスコ世界自然遺産にも指定されている。計画通りに行けば、通常は人の立ち入りさえ厳しく禁じられているこの地域に38キロの長さに渡って鉄柵が建つ。これにより森が分断されて、夏季にはエサを求めて動物たちが集まる湿地やブク川へつながる道が断たれる。
行動半径の大きいことで知られるネコ科のリンクスにとっては、縄張りが人為的に小さくなる。獲物が足りなくなるばかりか、繁殖の妨げになるリスクもある。専門家によると、リンクスは繁殖条件が難しい。つながりあう地域に住む個体数が小さくなると、1頭が死んだというような普通に起こる出来事が、他の個体の生死・繁殖を左右することさえあるという。
国境沿いにいる人々に関する情報と同じで、森の動物についてもベラルーシ政府の言うことは鵜呑みにはできない。プロパガンダが入っている可能性があるからだ。一方、ポーランド政府は鉄柵やカミソリ鉄線の設置場所などで言動が一致しなかったり、質問に答えなかったりと、やはり透明性に欠ける。報道機関の取材も禁じられているから、なかなか本当の様子はわからない。
難民・移民の問題が直に解決したとしても、国境の柵が取り除かれなければ森の生態系への影響は続く。原生林の将来に懸念が残りそうだ。