プーチン大統領、そしてロシア政府の残酷さは「敵」のウクライナに対してだけでなく、「身内」にも向けられている。ロシア軍は今月上旬、兵士1,351人がウクライナ戦争で死亡したことを認めた。『モスクワタイムズ』紙の調べによると、そのうち少なくとも25人が二十歳未満だった。実際の戦死者数は公式な数値を大きく上回るとみられ、ティーンエージャーの兵士の犠牲もずっと大きいと推測される。
エストニアとラトビアとの国境に近いプスコフに住んでいたイゴル・イフキンさん(19)は、乳飲み子の娘を残して亡くなった。妻のユリアさん(24)と結婚したのはコロナ禍の不景気のなか。大工の職がみつからず、「子どもが生まれても大丈夫なように」との思いから短期契約で軍に就職した。
ロシアの若い兵士たちは、プーチン執政下で生まれた「プーチン世代」に属す。小さい町や村で育った比較的貧しい人々が多い。都市に住む中産階層であれば、大学へ進学したり、法律の穴をくぐったり、わいろを使ったりして兵役を逃れる手がある。しかし、経済的に恵まれていない人々は言われるまま徴兵され、兵役期間中に上官からたびたび入隊の勧誘を受ける。ロシアの軍事政策に詳しい研究家パヴェル・ルージンさんによると、郷里での就職難や人生の意味を考え、「国が求めるなら」と職業軍人になるケースが多い。また、多くの兵士の父母の証言によると、入隊申請を強制される例も少なくないようだ。
ルージンさんは、若い職業軍人は経験も浅く、前線で犠牲になりやすいという。「18~19歳では死に対する恐れが小さい。男性ホルモンも働いて、不注意な行為に及びやすい。25歳ぐらいになると、その傾向は小さくなる」と話す。
兵士たちは、「演習」と聞かされて向かった先がウクライナだったり、「ウクライナ人はロシアの救いを待っている」と思っていたのに猛烈な反撃に遭ったり、予想に反した状況にさらされた。兵站の誤算もあり、空腹と寒さにも苦しんだ。そんな中で多くの仲間が死んでゆく。これがロシア軍の士気低下につながっているとみられている。