2022/5/18

テクノロジー

ウクライナ戦争、中東欧のITアウトソーシングに中期的な影響

この記事の要約

●地政学的なリスクが顕在化、発注減など避けられない見通し●IT人材の不足状況は変わらず、長期的には需要減少せずITサービスや技術者の供給源として注目されてきた中東欧地域にウクライナ戦争が影を投げかけている。地政学的リスク […]

●地政学的なリスクが顕在化、発注減など避けられない見通し

●IT人材の不足状況は変わらず、長期的には需要減少せず

ITサービスや技術者の供給源として注目されてきた中東欧地域にウクライナ戦争が影を投げかけている。地政学的リスクが顕在化したことで、同地域のIT企業への発注の減少など中期的な影響は避けられない見込みだ。一方、ITサービスや人材に対する世界的な需要は増加し続けており、中東欧を含む同分野における欧州の優位性は長期的には揺るぎそうにない。

世界におけるITサービス市場は拡大の一途をたどり、市場規模は年間4兆ドルに達している。製品需要と併せ技術者の需要も増えており、企業の採用活動は困難になっている。このため企業はフィリピンやインドの他、人材が豊富なウクライナ、ポーランド、ブルガリアなど中東欧諸国へのアウトソーシングを進めてきたが、2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻により状況は一変した。戦争の終結は見通せず、中東欧諸国がITサービスや技術者の供給元としての立場を維持することは難しくなっている。

一方、IT技術者に対する世界的な需要は減っていないことから、企業は優秀な技術者の採用に躍起だ。オートメーション化で人材不足に対処する試みにも限界があるため、ITサービスの外部委託に対する需要が増加し続けている。英グローバルアウトソーシング協会によると、IT分野のアウトソーシング量は昨年、前年比で20%増加した。クラウド、モバイルアプリ、オンライン販売プラットフォームなどあらゆる分野でニーズが増えている。

同協会によると、企業は新型コロナ禍を経て、1国ですべてのサービスを賄うことはできないという学びを得ており、世界各地で分散してアウトソーシング先を探すようになった。以前はインドやフィリピンが主な委託先だったが、人材の確保が困難になっており、代わりにブルガリア、ルーマニア、マケドニアなど中東欧の人材を求める企業が増えている。既にソフトウエア開発のハブとなっているポーランドは近隣諸国への委託を始めている。

欧州での人材確保が盛んな背景には、自動車、次世代エネルギー、運輸・鉄道などの分野でITスキルに優れた人材が輩出していることがある。同時にデータ保護対策が進んでいることも要因の一つだと、ドイツのソフト大手ソフトウエアAGのブラマワー最高経営責任者(CEO)は指摘する。

しかしながら、ロシアの軍事侵攻は地政学的なリスクを顕在化させており、中東欧のアウトソーシング先としての魅力を低めている。テロリズムなどのリスクを抱えるパキスタンがインドやフィリピンの後塵を拝しているのと同様だ。

企業としてはリスクが高まれば、それを減らすため契約上の義務を強化したり、バックアップを計画に盛り込むことが必要になる。専門家は中東欧企業との契約が破棄されるなどすれば今後数年間は同地域に影響が及ぶことになるとの見方を示す。契約期間の多くが3年から4年となっていることから、今後数年間は受注が戻らない計算だ。

一方、長期的には中東欧へのアウトソーシングが減少することはないとの見方が多い。人材不足の状況は変わらず、外部委託なくして企業は操業を続けられないためだ。