EUの科学研究プログラムへの参加可否、英が通商協力協定の紛争解決手続き開始

●協定発効から1年半経過した現在も英国の参加は確定せず

●「ホライズン」にはイスラエルやトルコなどの域外国も参加

英政府は16日、多国間の研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」をはじめとする欧州連合(EU)の科学研究プログラムへの英国の参加をめぐり、EUに対する法的手続きを開始したと発表した。EU離脱後の英国とEUの関係を規定する通商協力協定(TCA)に基づき、英国は引き続きEUの科学研究プログラムに参加できることになっているが、協定の発効から1年半以上経過した現在も英国の参加が確定しておらず、英・EU双方における研究活動に深刻な影響が出ている。このためTCAが定める紛争解決手続きに基づいてEUとの正式協議を開始し、EU側に協定の義務を履行するよう促した。

EUと英国が合意した研究開発に関する取り決めによると、英国はEU離脱後も5つのプログラム ――2021~27年に総額955億ユーロを投じるホライズン・ヨーロッパ、欧州原子力共同体(Euratom)の研究プログラム、地球観測プログラム「コペルニクス」、宇宙監視追跡システム(SST)への支援プロジェクト、核融合システムの機能を構築する「ITER」プロジェクト――に資金(GDPをもとに算出)を拠出し、引き続き参加できることになっている。しかし、既にイスラエルやトルコなどの域外国がホライズンに参加しているにもかかわらず、EUは現在も「英国のアクセスを確定することを拒否」(英外務省)している。

トラス外相は声明で「EUは協定に明確に違反しており、最終的に重要な研究プログラムへの英国のアクセスを拒否することで、科学分野での協力を政治的に利用しようと試みている。このような事態を放置しておくことはできない。正式な協議を開始して必要なことは全て行う」と強調した。

これに対し、欧州委員会のフェリー報道官は、科学研究における多国間の協力がもたらす「相互利益」を十分に認識しており、TCAの手続きに沿って適切に対応するとコメント。そのうえで「本事案の政治的背景を思い起こすことが重要だ。離脱協定とTCAの一部の履行に深刻な

問題がある」と述べ、英側が北アイルランド議定書を完全に履行することが問題解決につながるとの考えを示した。

欧州委は6月、英政府がEU離脱協定に盛り込まれた英領北アイルランドに関する取り決めの一部を一方的にほごにする「北アイルランド議定書法案」を議会に提出したことを受け、北アイルランド議定書の修正に向けた再交渉には応じない姿勢を改めて示すとともに、一時中断していた英国に対するEU法上の義務不履行手続きを再開した。同法案の成立に向けた審議が進んでいることを背景に、7月には範囲を拡大してさらに4件の義務不履行手続きを開始している。5件の義務不履行について英国が9月15日までに回答しない場合、欧州委はEU司法裁判所に提訴する可能性がある。

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