●一律の禁止は自国から逃れたいロシア人を不利に=独首相
●エストニアはEU加盟国で初めて発給済みのビザを無効に
ロシア人観光客が欧州連合(EU)域内に入るのを禁止するかどうかをめぐり、加盟国の間で意見が分かれている。ロシアと国境を接するバルト3国やフィンランド、ポーランドなどがEUとして域内への渡航を禁止するよう求めているのに対し、ドイツは反対を表明しており、EU高官も一律の禁止に難色を示している。加盟国は31日にプラハで開く非公式外相会合でこの問題について協議する。
エストニアは18日からロシア人の入国を原則禁止した。観光や留学、就労用ビザ(査証)の新規発給を停止するとともに、過去に発給したビザでの入国も認めない。発給済みのビザを無効とする措置はEU加盟国で初めて。観光ビザを持つ約5万人が影響を受けるとみられている。
EUはロシアのウクライナ侵攻直後に、対ロ制裁の一環としてロシアの航空機の域内への乗り入れを禁止したが、陸路で周辺国に入るロシア人が増えており、これまでにエストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランドがビザ発給を停止または制限している。しかし、EU加盟国の大部分は域内の移動の自由を保証する「シェンゲン協定」に加盟しているため、EU全体で共同歩調をとらないと実効性を確保することが難しい。このためバルト3国などはEUレベルで厳しい措置を導入するよう求めている。
リトアニアのランズベルギス首相は23日、EUがロシア人観光客の域内渡航を禁止しない場合、バルト3国とフィンランド、ポーランドは独自に入国禁止に踏み切る可能性があると警告した。同氏は記者団に対し「5カ国の閣僚がこの問題について協議したところ、大きな見解の相違はみられなかった。EUレベルで最も持続可能かつ法的に正しい解決策を望むが、それが不可能な場合は地域的な解決策を模索することになる。ロシアは(ウクライナで)ジェノサイド(大量虐殺)を行っており、ロシア国民が欧州で休暇を過ごすことを認めるべきではない」と述べた。
フィンランド政府も18日、ロシア国民からのビザ申請の受理件数を大幅に減らすと発表した。9月から1日当たりの受理件数を現在の1,000件から半分の500件に引き下げ、このうち観光ビザは100件に絞り込む。
マリン首相は記者会見で、一般のロシア国民が戦争を始めたわけではないものの、多くの国民がウクライナへの軍事侵攻を支持していることも事実だと指摘。「侵略戦争を続けているロシアの国民が何事もなかったかのように欧州内を旅行できるのは誤りだ」と述べた。
一方、ドイツのショルツ首相は22日、「戦うべき相手はプーチン大統領であり、ロシア国民ではない」と発言。EUレベルでロシア人の渡航を一律に禁止した場合、プーチン政権に反対して自国から逃れたいと考える多くの人が行き場を失うことになると指摘した。
EUのボレル外交安全保障上級代表も同日、「すべてのロシア人の入国を禁止するのは良い考えとはいえない。当然ながらオリガルヒ(新興財閥)の入国は拒否すべきが、プーチン体制から逃れて他国で暮らしたいと考えるロシア人も多い点を考慮する必要がある」と述べた。