●EUと同国は「法の支配」の基本理念をめぐり対立を深めている
●最終的にEU法違反と認定された場合、同国は制裁金が科される
欧州委員会は15日、ポーランド憲法裁判所とその判例が「EU法の優位性」の原則に反するとして、同国をEU司法裁判所に提訴すると発表した。最終的にEU法違反と認定された場合、ポーランドは制裁金が科されることになる。
EUとポーランドは、EUの基本理念である「法の支配」をめぐり対立を深めている。ポーランドでは2015年の総選挙で愛国主義的な色彩の強い「法と正義」が政権を掌握して以来、違憲判決を出すのが難しくなるよう憲法裁判所の仕組みを変えたり、最高裁判事の人事権を政府が掌握するための法改正を行うなど、政権による司法介入を強める制度改革が進められてきた。
今回問題となっているのは、憲法裁判所が21年10月、EU法が国内法より優先されるとのEUの原則を否定する判断を示したこと。裁判官の懲戒制度をめぐり、EU司法裁は同年7月、ポーランドに対して同制度の一時停止などの暫定的措置を命じ、10月には命令違反で1日100万ユーロの制裁金を科した。憲法裁はこれに対し、EU司法裁が同国の司法制度に介入するのはポーランド憲法の優越性の原則に反するとの判断を示した。
欧州委は12月、憲法裁の判断は、EU法が憲法を含む加盟国の国内法に優越するとしたEUの法秩序に対する挑戦であり、EUの共通の価値を危機にさらすと非難。ポーランドに対する法的手続きに入った。ポーランド側から改善策の提示がなかったため、欧州委は22年7月に理由付き意見書を送付。9月に回答が示されたものの、欧州委の懸念に応えていないとして提訴に踏み切った。
欧州委は提訴の理由について、EU法の優位性は、EU全域でEU法の平等な適用を保証するものであり、ポーランド国民の権利が保護され、すべてのEU市民と同じようにEUの恩恵を享受できるようにすることが目的と説明。EU法の優位性を否定する判断を下したポーランド憲法裁は、EU法の平等な適用や、加盟国の司法当局に対するEU司法裁の判決の拘束力といった法秩序に反しており、「法で定められた裁判所の要件を満たしていない」と断じている。