ドイツのある小政党が国内最大の金融機関であるドイツ銀行を相手取って裁判を起こした。銀行口座をドイツ銀サイドから解約されたことを不服としてその取り消しを求めているのである。
\この政党はドイツマルクス・レーニン主義党(MLPD)。名前がすべてを語っているように共産主義政党である。
\同党はドイツ銀行に25年前から口座を持っていた。辛口の人からは「革命政党が『金融資本』の顧客になるとは何事か」「革命の軍資金を『労働者階級の敵』の手に預け、なおかつ口座手数料を毎月支払っているというのは日和見・なれ合いではないのか」などの批判も聞こえてきそうだが、これにはそれなりの事情がある。ドイツの政党法の決まりにより1,000ユーロを超える献金は口座振り込みでないと受け取れないことになっているのだ。裏返せば、口座がないと党の財政が干からびかねないということである。
\ドイツ銀行はMLPDの口座をなぜ解約したのかについて同党に説明していない。マスコミの問い合わせに対しても係争中であることと顧客情報の守秘原則を理由に回答を控えている。
\一方、MLPDによると、理由は明快である。すでにシュテファン・エンゲル党首夫妻は昨年初頭、夫婦共同の私的口座をコメルツ銀行から何の説明もなしに解約され、また、ドイツ銀行が党口座を解約した後は、どの銀行からも党口座の開設を拒否されているという。ここから導かれるMLPDの結論は「銀行業界は共謀して党の財政基盤を枯渇させようとしている」の一言に尽きる。
\同党は綱領のなかで「労働者階級は党の指導のもとで武装蜂起しなければならない」「独占資本家の独裁打倒」などの穏当でない言葉をこれでもかと言わんばかりに多数並べており、憲法擁護庁の監視対象にもなっている。その意味では銀行にとっても危険な存在なのかもしれない。
\だが、この種の呼びかけに応える市民など、現在のドイツにはおよそ存在しない。そもそも党員数は2,000人程度に過ぎないのだ。
\同国の銀行がこの「泡沫政党」に対しなぜ急に厳しい態度を取り始めたのかは、理解しかねる。金融・経済危機の発生後、「大きな政府」の復権を求める声が強くなり、一部の政治家や経営者から「社会主義化の危険」が批判されるようになったことが関係しているのだろうか。
\