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2010/2/24

総合 - ドイツ経済ニュース

金属業界で新労使協定、雇用維持を最優先

この記事の要約

独ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州の金属業界(電機・自動車・機械など)の労使代表は18日、新しい協定で合意した。戦後最悪の不況を受け、従業員の雇用維持を最優先させた内容。金属雇用者団体ゲザムトメタルと金属労組 […]

独ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州の金属業界(電機・自動車・機械など)の労使代表は18日、新しい協定で合意した。戦後最悪の不況を受け、従業員の雇用維持を最優先させた内容。金属雇用者団体ゲザムトメタルと金属労組IGメタルはともに満足の意を示し、他の地区の労使に対しNRW州と同様の協定を結ぶよう勧告した。

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今回の協定の最大の目玉は業界独自の操短制度「労働の将来(Zukunft in Arbeit)」を導入することだ。同制度は公的な操短補助金制度を1年以上利用した企業・事業所を対象としたもので、企業にとっては人件費負担の軽減、従業員にとっても経営上の理由による解雇の回避というメリットがある。IGメタルは何らかの雇用対策を打たなければ業界の就労者が最大70万人失業すると懸念し、同労組としては異例の労使協調路線を打ち出していた。

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業界独自の操短制度は2段階構成となっている。第1段階は国の操短制度の上限枠を利用しきっていない企業を対象としたもので、一時金である休暇手当とクリスマス手当を毎月の給料に均等に割り振るのが特徴だ。これにより(1)操短の適用を受ける従業員の月給が上昇するため、連動する形で国から受ける補助金の額も上がる(2)操短でカットされた労働時間に対する給与保証額は実際に働いた時間のものよりも低いため、(月給に繰り込まれた)クリスマス手当などの支給額が下がり、企業の人件費負担は低下する――ことになる。

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第2段階は操短制度の利用枠を使い切った企業を対象としたもので、適用を受ける企業は労働時間を本来の週35時間から最大26時間まで削減できる。カットの対象となった労働時間の給与保証額は比較的少なく、労働時間を28時間とした場合は29.5時間分の給与が支給される。

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業界操短制度はこれに伴うコストの一部を国が負担することを前提としている。このため政府が新ルールを導入するなどの措置を取らない場合、労使は新たな雇用維持策の策定に向け交渉を行う予定だ。IGメタルとゲザムトメタルは特に、操短労働者の社会保険料の雇用主負担分を企業に還付する時限措置の適用期限を現行規定の2010年末から2011年半ばに半年間延長するよう要求している。2010年1月から操短を開始した企業が補助金の最大の支給期間である18カ月をフルに活用する場合、現行規定に従うと社会保険料の還付が13カ月目の2011年1月から受けられなくなるためだ。ゲザムトメタルのカンネギーサー会長によると、同時限措置を半年延長しても国の負担増は5億ユーロにとどまるという。

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IGメタルは今回の交渉で具体的なベア要求を初めて見送った。ただその一方で、ゼロ回答は受け入れない姿勢も堅持。最終的に一時金と賃上げを獲得した。一時金は計320ユーロ(今年5月1日に160ユーロ、同12月1日に160ユーロ)で、賃金は景気回復が現在よりも進むと予想される2011年4月1日付で2.7%引き上げられる。賃金協定の期間は2010年5月1日~2012年3月末の23カ月間。「労働の将来」協定について期限が2012年6月末までとやや長い。

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政府は態度保留

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今回の合意には被用者の生活と国内消費の大幅悪化を防ぐほか、人員削減に伴う企業のノウハウ喪失を回避するという狙いもある。このため経済界の評価は高く、独商工会議所連合会(DIHK)のヴァンスレーベン専務理事は「この賢明な協定は他業界の労使交渉の指標となるべきだ」との見解を示した。

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一方、ボールを受け取った形の政府は態度を保留しており、フォンデアライエン労働相は今夏に方針決定する考えを示すにとどめた。背景には財源の確保が難しいという事情がある。

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所轄官庁の連邦雇用庁(BA)が操短に絡んで支出した額は昨年45億7,000万ユーロに達した。BAの準備金はすでに底を突いており、金属業界の要求を満たすには税金を投入する以外に手だてがないのだ。政府は景気や労働市場の動向をぎりぎりまで見極めたうえで最終決断を下す意向とみられる。

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