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2010/5/26

総合 - ドイツ経済ニュース

EU内でドイツが孤立、独仏関係は冷却化

この記事の要約

ギリシャ財政とユーロ危機への対応でドイツの孤立が鮮明になっている。経済競争力と財政基盤が弱くデフォルトリスクが相対的に高い南欧のユーロ加盟国が、資金難に陥った国への支援に厳しい態度で臨むドイツに反発。ドイツとともに欧州連 […]

ギリシャ財政とユーロ危機への対応でドイツの孤立が鮮明になっている。経済競争力と財政基盤が弱くデフォルトリスクが相対的に高い南欧のユーロ加盟国が、資金難に陥った国への支援に厳しい態度で臨むドイツに反発。ドイツとともに欧州連合(EU)をけん引するフランスも今回はドイツを批判しており、両国の政治関係は急速に冷え込んでいる。独メディアの報道によると、メルケル政権内では最近、反仏的な発言が公然と行われているもようだ。

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今回の危機のなかで独仏関係の異変が最初に明らかになったのは3月中旬。クリスティーヌ・ラガルド仏財務相が、輸出に依存したドイツの経済成長は貿易赤字を抱える他のユーロ加盟国の犠牲のうえに成り立っていると指摘したうえで、ドイツは被用者の可処分所得を大幅に増やして内需を拡大し貿易黒字を削減すべきだとの立場を表明したのである。内需が増えれば他のユーロ加盟国の貿易赤字と財政赤字が縮小するとの論理で、フランスの閣僚経験者である国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事はこの見解を支持した。

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これに対しドイツサイドは明確に反論。シュテークマンス政府副報道官は、ユーロに加盟するすべての国が共通の成長戦略に全力を投入すべきだと指摘。競争力の高い国がその力を意図的に落とすのではなく、低い国と高い国がともに競争力を引き上げていくことが重要だと訴えた。また、ブリューデルレ独経済相は「これまで身の丈に合わない生活を送り競争力をおろそかにしてきた国が(状況が悪化した)今になって(競争力の高い)他の国を批判するのはアンフェアだ」と批判した。

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ドイツは恒常的に貿易黒字を計上し、経済危機下の昨年も1,358億ユーロを記録した。一方、フランスは原子力や自動車産業があるものの、産業競争力は相対的に低く、昨年の貿易赤字額は545億ユーロに達した。慢性的な貿易赤字を抱える南欧諸国とは経済構造が似ている。

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ユーロ加盟国への緊急支援案

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舞台裏でメルケル外し

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ドイツの孤立が明確になったのは、ユーロ圏で資金難に陥った国が出た場合に最大7,500億ユーロの緊急支援を行う新制度「欧州金融安定化メカニズム」を取り決める過程だ。

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7日に開かれたユーロ圏16カ国の緊急首脳会議では、支援資金はEUの予算内から数百億ユーロを捻出することで大筋合意が成立していた。だが、その後のEU緊急財務相会合で10日未明に取り決められた合意内容は、EUのほかユーロ加盟国も総額4,400億ユーロの融資保証を行うとなっており、大きく変更されている。

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EU加盟国が支援措置をにわかに拡大した直接の原因は、ユーロに対する1兆ユーロ規模の投機筋の攻撃が週明けの10日にも始まるとの情報がもたらされたためだ。

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だが、その舞台裏ではサルコジ仏大統領とベルルスコーニ伊首相、バローゾ欧州委員長(元ポルトガル首相)がシナリオの書き直しを行っていたもようだ。危機に陥ったユーロ加盟国への財政支援はフランス政府がこれまで何度も要求し、そのつどドイツの反対で実現しなかった経緯がある。サルコジ大統領らは5月上旬に危機を利用してこの壁を一気に突破した格好だ。

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メルケル独首相はこのとき、モスクワで開かれていたドイツ降伏65周年式典に出席しており、この重大な変更に一切関与していない。一方、サルコジ大統領とベルルスコーニ首相は同式典への参加を直前になってキャンセル、メルケル首相抜きで政策調整を進めた。ドイツは第2次世界大戦でソ連に大きな損害を与えた経緯があり、メルケル首相は出席を取りやめにくい立場に置かれていた。

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同日はまたECBが「ユーロ圏の機能不全に陥った市場での流動性を確保するため、国債、民間債券市場に介入することを決めた」と発表し、ユーロ圏の財政不安がある国の国債を市場から買い取る措置を開始した。これも通貨の安定性を重視するドイツがユーロ導入時から強く反対してきた政策だが、欧州中銀内で明確に反対したのは独中央銀行のアクセル・ヴェーバー総裁(ECB理事)だけだったという。

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独経済誌『ヴィルツシャフトボッヘ』は「メルケルのワーテルロー」と題した特集記事でこの2つの出来事を「(第2次大戦に続く)ドイツの新たな降伏」と表現している。一方、フランスサイドでは「歴史的な転換点」(ラガルド財務相)、「ユーロ圏の主導権の革命」(リベラシオン紙)などと極めて高く評価されている。

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空売り規制は空回り

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ドイツが18日から単独で開始した空売り規制も裏目に出た。市場が混乱しユーロ相場や株価が急落したうえ、事前連絡を受けていなかった他のEU諸国から批判を受けたのだ。

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EUでは現在、投機がユーロ危機を増幅させていることを受け空売り禁止が検討されているため、ドイツは他国に先駆けて禁止に踏み切ることで、EU内での主導権を取り戻そうとしたとみられる。(下の記事を参照)

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