欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/6/9

経済産業情報

オオカミ復活の憂鬱

この記事の要約

「赤ずきん」の国ドイツにはかつてオオカミがたくさんいた。猟銃なしで森に入ることはリスクを伴う行為であった。しかし、家畜に害を与えるその有害性ゆえに狩猟の対象となり、20世紀の初頭に完全に姿を消した。1904年2月27日、 […]

「赤ずきん」の国ドイツにはかつてオオカミがたくさんいた。猟銃なしで森に入ることはリスクを伴う行為であった。しかし、家畜に害を与えるその有害性ゆえに狩猟の対象となり、20世紀の初頭に完全に姿を消した。1904年2月27日、ポーランドとの国境地帯ラウジッツで打ちとめられた全長160センチメートルの巨大なオオカミが最後の一匹である。その場所の地名を取って「ザブロートの虎」という伝説めいた名前がつけられている。ニホンオオカミが絶滅したのが1905年とされるから、どこかに共通点があるのではなかろうか。

\

サブロートの虎からおよそ1世紀の間、ドイツには野生のオオカミが生息していなかったが、1990年代に入ってポーランドの森から流れてきた群れなどが棲みつくようになった。現在ドイツ全体で50~60匹いると推定される。ヘッセン、ニーダーザクセンといった西部の州でも群れからはぐれた個体が確認されている。

\

生息数が最も多いのはラウジッツ地方で、40~50匹が5つの群れに分かれて生活している。『南ドイツ新聞』によれば、生物学的にはドイツ全体の生息数が1,000匹に達すると絶滅の危機がなくなるといい、ラウジッツは動物愛護家などから熱い視線を浴びている。

\

だが、それとは裏腹に地元の酪農農家は困惑を深めている。夜中に飼い牛が襲われ、子牛が何頭も食い殺されているからだ。オオカミは法律で保護されているため射殺するわけにもいかず、農家は有刺鉄線の柵に高圧電流を流すといった対策を取るのがせいぜいのところだ。

\

環境保護当局は「母牛が守るため子牛が襲われるのは例外」と言うが、農家のなかには子牛が4頭も犠牲になったところもあり、当局の説明には疑問符がつきまとう。

\