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2011/2/23

経済産業情報

独当局が66年前の証人探し

この記事の要約

相対性理論で有名なアルベルト・アインシュタインはドイツで生まれ、54歳にして亡命を余儀なくされた。ユダヤ人であったからである。\ もっとも軍国主義の風潮が強かったドイツに対しては子供のころから相性が悪く、ドイツ国籍は早い […]

相対性理論で有名なアルベルト・アインシュタインはドイツで生まれ、54歳にして亡命を余儀なくされた。ユダヤ人であったからである。

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もっとも軍国主義の風潮が強かったドイツに対しては子供のころから相性が悪く、ドイツ国籍は早い時点で放棄し、スイス国籍を取得している。プロイセン科学アカデミーの会員に選ばれた関係で1913年以降はベルリンを生活拠点とすることになり、ナチスが政権を掌握した1933年、ドイツに戻れなくなり、そのまま亡命生活に入った次第だ。

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彼にはロベルト・アインシュタインという従弟がイタリアにいた。フィレンツェ近郊の小村リニャーノ・スッラルノである。

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ときは第2次世界大戦末期の1944年8月3日。イタリアは連合国にすでに降伏していたものの、ドイツの傀儡と化したムッソリーニはなお健全で、イタリアではナチスがユダヤ人狩りを行っていた。

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この日、ナチスの殺人部隊はロベルト宅を襲撃した。アインシュタインという名字からユダヤ人であることを突き止めたためである。ロベルトはそうした事態を予想し、家の近くに隠れていたが、自宅を襲ったドイツ兵は妻と若い娘2人をスパイと決めつけてその場で射殺。悲嘆したロベルトは翌年、自殺した。

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こうした事件は欧州のあちこちに残されているが、その多くは犯人を特定できず、未解明のままとなっている。ロベルト家の事件も事実上、お蔵入りしていた。

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だが、ドイツの警察・検察当局は事件から63年が過ぎた2007年に捜査を再開した。

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「なぜ今頃になって」と言えば、それは犯人逮捕につながりうる情報がバーデン・ヴュルテンベルク州のナチス犯罪究明センターに寄せられたためである。捜査当局が今月18日に公表したところによると、ロベルトの家族を殺害した部隊に所属していたものの、犯行に加わらなかった兵士が1人いたことが分かったとのこと。この兵士が当時18~20歳程度だったことも分かっている。

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当局は生きていれば現在84~86歳になっている元兵士の行方を、報奨金5,000ユーロを出して追っているのだ。

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この人物がもし生きていたとしても、現在の年齢を考えると証拠能力のある証言を得られない可能性は十分にある。また、殺害を実行した兵士はすでに死亡しているかもしれない。それにもかかわらず事件の解明を歴史家の手に全面的に委ねない捜査当局の執念には頭が下がる。

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ナチスの戦犯追跡はおそらく20年後にはもはや行われていないだろう。戦争犯罪者のほとんどはもはや存在しなくなっているからである。その意味で当局は現在、ラストスパートをかけざるを得ない状況に置かれているとも言える。

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